たけくまメモMANIAX

2012年4月30日

【再録】たけくま月評(第13回)丸山薫インタビュー

●『吉野の姫』の衝撃

丸山薫さんの『吉野の姫』を見たのは、昨年(2005年)8月に大阪で開催されたJAWACONでのことだった。JAWACONは、ネット上でFLASHアニメを発表している個人作家が中心になった、本邦初のコンベンションである。

上映会ではそうそうたるFLASH作家の作品が次々と映写される中、ひときわ注目を集めたのが丸山さんの『吉野の姫』であった。抜群の絵のうまさ。どこか村田蓮爾を思わせる……といえばその達者さが想像つくだろう。構図・描線・デッサンともにスキがなく、かといって難解なアート風でもない。ややアニメよりの少女マンガといったタッチで、一般のマンガファンやアニメファンにも親しみがわく画風である。

ストーリー・演出も申し分がない。大平洋戦争末期の日本(タイトルから、私は最初てっきり吉野の里=奈良が舞台だと思いこんでいたが、作者によれば東京の多摩近辺=武蔵の国らしい)、可愛くもわがままな桜の精・吉野の姫と、人間の少女との交流を描いた作品である。ただし交流といっても、直接的な接触を描くわけではない。小鳥ほどの大きさの姫が、シニカルな表情で桜の枝から下界を見下ろしていると、人間の少女(『火垂るの墓』の節子を思わせる)が、明日戦地に出征する兄のために、季節にはまだ早い桜の花を咲かせてください、と願をかける。姫は人間を軽蔑しているのだが、少女の兄の余命がいくばくもないことを知り、陰ながらその願いを聞き入れるという、ハートウォームな物語である。

8分の作品には過不足のないストーリー。シンプルながらテーマの重さが静かな感動を呼び起こす。さらに丸山さん特有の繊細でユーモアある演出が、作品に奥行きを与えている。

JAWACONは賞を与えるイベントではなかったが、『吉野の姫』はその後三鷹インディーズアニメフェスタでグランプリ、第4回メルヘンアニメコンテストで大野町賞、そして今年のDOGA主催第18回CGアニメコンテストで「グラフィック賞」を受賞するなど、快進撃を続けている。

●丸山薫の談話

「『吉野の姫』は、もともとマンガとして構想していた作品なんです」
インタビュー場所に現れた丸山薫さんは、寡黙ながらも芯のある声、落ち着いた物腰の人だった。

「本業はイラストレーターです。子供向けのイラストを中心にやってます。学生時代からマンガやイラストを描いていたんですが、普通の学校で、マン研もなかったので、まったくの独学ですね。イラスト仕事にしても、学校を出てから兼業ではじめたようなもので、マイペースで仕事をさせてもらってます。

アニメも、趣味ではじめたんです。4年くらい前から、アニメを作って個人サイトにアップしてました。最初はGIFアニメだったんですけど、色数が使えないので、FLASHに乗り換えたんです。私のような作風だと、After Effectsという、プロ用のソフトを使う人が多いんですけど、私はFLASHから入ってしまったもので……(笑)。ですから、FLASHとしては特殊な使い方かもしれません。」

当時はまだ新海誠の『ほしのこえ』が出た直後で、個人アニメが一気に話題になったが、『ほしのこえ』の作り方ではアマチュアには敷居が高く、なかなか後に続く作家が登場しない時期だった。その中で、FLASHでストーリー性のあるアニメを作るPOEYAMA氏や、青池良輔氏、森野あるじ氏などが登場してきたことが、丸山さんがアニメに向かうきっかけになったという。

「当時、まだダイヤルアップだったんです私。それでPOEYAMAさんの作品を何十分もかけてダウンロードして、電話代が大変で(笑)。でも他の動画にくらべてFLASHはデータが軽いから、これはネット向きだな、と思いましたね」

それで自分でも作りはじめたと。
「そうです。それで私のFLASHを見て、JAWACONが声をかけてくれたんです。新作を作って欲しいというので、以前からマンガ用に暖めていた『吉野の姫』を。キャラクターや部分的なシーンが出来てましたのでね。でも、それまで短い作品が多かったので、8分は大変でした。アニメの製作期間は2ヶ月くらいなんですが、最後の頃は、もう朝9時から朝5時までみたいに休みなく作業が(笑)。ですから私個人は、作品に納得してないんです。妥協の連続で作りましたから……DVDにするのなら、最初から作り直したいですね(笑)」

丸山さんは、注目されることにややとまどいを感じているようだった。「これからもマイペースで、納得のいく作品を作っていきたい」という言葉を、何度も強調した。

話を聞いているうちに、私はマンガ家の高野文子を思い出した。70年代末、大友克洋とともにニューウェーブコミックの騎手として注目を浴びた高野は、ベテランになった現在までセミプロの姿勢を崩さず、単行本も数年に一冊というマイペースで、納得がいくまで作品に取り組む完全主義の作風を貫いている。

高野の作品の多くはマンガ史上の傑作として、現在も変わらぬ支持を集めているが、その完成度は「マイペース」が支えているところがある。

丸山さんも、高野文子の道を歩むのかもしれない。ただし、高野の時代にはマンガしかなかったが、現在はこれに「FLASHアニメ」が加わっている。この新しいツールを用いて、丸山さんは新しい「作家」の道を歩んでいくのだろうか。楽しみなことである。

●丸山薫公式サイト(http://maruproduction.com/index.html)

※初出「まんたんブロード」(毎日新聞社)Vol.25 2006年8月号掲載

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