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2008年6月25日

マンガ界崩壊を止めるためには(6)

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●限界に来たマンガのビジネスモデル

以上、述べて来ましたように、マンガ界はこれまでのビジネスモデルが限界に達しつつあり、早くなんらかの手を打たないと、大手出版社を始めとして版元も作家も共倒れになる危険性があります。

もちろんこれはマンガ界単独の問題では実はなくて、「版元―取次―書店」といった出版流通の構造が限界に達しているということで、全出版流通の三割を占めるマンガ(雑誌・単行本)が売れなくなってきているということが、事態をより深刻にしているわけです。

ブックオフやマンガ喫茶の隆盛を見る限りでは、マンガ読者が減っているのではなく、マンガを(新刊で)買う人が減っているだけだということがわかります。ここから考えても、マンガ表現そのものは、これからも生き残るだろうと思います。

実際、出版流通の中心から目を転じてみるならば、コミケなど同人誌即売会の隆盛は年々大きな存在感をしめしており、インターネットではマンガネタが大きなウェイトを占め、ケータイマンガなどのニューカマーが倍々ゲームで業績を伸ばしている実態があります。

しかし、版元―取次―書店流通による紙マンガ出版が現状、圧倒的主流であることは確かなことで、たぶんこれからも当分は主流であり続けることでしょう。

俺のような紙のマンガで育って来た人間にとって、ネットマンガやケータイマンガはどうにも読みづらく、マンガはできるだけ紙媒体で、本の形で読みたいという希望があります。こういう人は実際に多いと思います。

そもそも日本のマンガは、ザラ紙の本に活版・モノクロで印刷することを前提として発展してきた表現です。将来、ペーパー・ディスプレイのような画期的な電子デバイスが普及すれば別ですが、当面は本の形態でのマンガ流通が主流であることは、間違いがないだろうと思います。

●マンガ界崩壊を止めるための試案

そこで、現状のマンガ出版の低落傾向に歯止めをかけるにはどうすればいいのか、ということですが、俺なりの見解を以下に書きます。 (※以下の試案は週刊連載マンガを想定したものです。月刊連載では、また違ったものになると思います)

(1)マンガの長期連載を極力やめて、単行本巻数も70年代までのように長くても10巻程度にとどめる(連載年数にして最長3年。多くは半年~2年)。テレビドラマのように3ヶ月をワンクールにし、そこで区切りよく終わる作品作りを主流とすることが望ましい。

(2)かりに人気が出て長期連載にする場合でも、「クール制」は厳守する。ワンクール(3ヶ月)連載したら、次の三ヶ月は次クールの準備にあて、またワンクール連載、原則これをくり返す。これは作家側の不必要な負担を軽減する意味がある。きちんとした契約を締結し、準備期間であっても「連載準備金」を支払い、期間中は最低限の生活を作家に保証する。

(3)長期連載に頼らぬ以上、版元は徹底して「企画開発」に力をいれ、次々と新連載を起こしていかなければならない。これまで個人の編集にまかされていた新連載の企画も、編集部内に常時「新連載開発班」を設けて、前の担当連載が終わった編集者はここに配属されて新連載の企画開発に「専念」する。そこまでの余裕が編集部にない場合、外部の「マンガ・プロデューサー」がマンガ家や編集部と協力してこの任にあたる。

(4)このシステムでは「契約」が重要となる。そこで版元とマンガ家をつなぐエージェントとしてマンガ・プロデューサーの役割が大きなものとなる。マンガ・プロデューサーには、原作まで手がけている場合は原作印税を、原作は作家側だがネーム等に深くタッチしている場合は「編集印税」、そして「企画料」を支払うことで、版元はこれに応える。作家と同じく、ハイリスクだがハイリターンでならねばならない。

●日本型エージェント=マンガ・プロデューサーについて

作家の権利向上のためのユニオン(作家組合)を作ることには、(4)で述べたような難しい事情がマンガ界にはあって、将来はともかく、現状では設立しても骨抜きにされて有名無実化してしまう恐れがあります。エージェントも、欧米型の極めてビジネスライクなそれは日本では難しいものがあります。しかしマンガ編集者が独立して「日本型エージェント」=「マンガ・プロデューサー」となり、これが業界で重要な位置を占めることがあるならば、この問題は解決に向かう可能性があるのではないかと思います。

現在「マンガ・プロデューサー」として、講談社から独立した樹林伸氏や、小学館から独立した長崎尚志氏の活躍が話題になっています。樹林氏は、社員編集者として『金田一少年の事件簿』をプロデュースしてヒットさせた編集者で、長崎尚志氏は、浦沢直樹氏の新人時代からの担当編集として浦沢作品のプロデュースに長年当たってきた人物です。

●作家から見れば、彼らは「異動のない担当編集者」

彼らの仕事を一言で言うなら、出版社の外部に足場を置きつつ「原作者(脚本ブレーン)」と「編集者」を同時にこなしているような仕事です。加えて作品を出版社に売り込んだり映像化権などのビジネスを展開する「エージェント」の仕事があって、これらがすべて合わさったものが「マンガ・プロデューサー」の仕事になるのだと思われます。

それらは、もともと社員編集者が業務として行っていた仕事であるわけですが、唯一の違いは、プロデューサーは版元ではなく、「作家(作品)の側につく」ということです。 これは大きな違いだと思います。作家からすれば、彼は自分専属の編集者であり、自分のエージェントとして会社との交渉一切を取り仕切ってくれるありがたい存在です。しかも、異動することがありません。

フリーの立場で大手版元(特に小学館)と仕事していて困ることは、社員の異動が異常に多いということです。雷句誠氏が裁判所に提出した陳述書を読むと、『金色のガッシュ!』の担当者は、7年間の連載中になんと5人も変わっています。小学館の社員はだいたい2~3年で異動するのが通例ですから、こういうことがあっても不思議はありませんが、これでは確かに作家との信頼関係を築くいとまもないでしょう。作家と編集の関係性が確立するのには、たぶん2年はかかりますが、そこで異動されたら新しい担当と一からやり直しになってしまいます。

雷句氏の陳述書を見ると、『金色のガッシュ!』を一緒に立ち上げた初代担当者とは、良好な関係があったようです。この担当者氏がもし最後まで作品の担当をしていたなら、かりに原稿紛失があったとしても、雷句氏が会社を訴えることはなかったと思われます。

マンガに限りませんが、編集者が他社に転職したら、その編集者と仕事をしていた作家も一緒についていくという話は、出版界にはいくらでも転がっています。

作家は、編集者個人と仕事をしているので、会社と仕事をしているわけではない

ということです(主観としては)。今に始まった問題ではないですが、担当者の異動は、作家にとって(実は編集者個人にとっても)とても頭の痛い問題なのです。

http://88552772.at.webry.info/200806/article_2.html
↑雷句誠の今日この頃「小学館を提訴」

編集者との相性問題は、連載の成功を左右するほど重要な問題です。もし新人時代に有能で相性のいい編集者に出会えたら、その人の作家人生は非常にラッキーだといえます。多くは、相性の悪い編集ばかりに出会ってしまい、不本意な仕事を続けさせられたあげく、業界から消えていく人がほとんどなのです。そうしたわけで、版元から独立したマンガ・プロデューサー(エージェント)が複数現れるということは、作家からすれば、

担当編集者の選択肢が増えること

になります。もちろん相性のいい編集(プロデューサー)を探すためには、さまざまなタイプのマンガ・プロデューサーが多数出現することが前提になります。

●編集者が独立するメリットとは

マンガ不況は当然のように編集にもアウト・ソーシングの波を呼び寄せており、今でもフリー編集者は多数存在し、編集プロダクションからの派遣社員とともに、大手・中小の編集部で仕事をしています。将来こうした人の中から「マンガ・プロデューサー」が現れる可能性は、俺はあるだろうと思いますが、現状ではなかなか難しいと思います。彼らも編集部の一員として仕事をしていますから、担当作家を持ち、社員編集者とほぼ同等の仕事をしています。でも正社員ではないので、たとえば編集長に掛け合って予算を動かすほどの権限は普通はありません。活動に制約がある以上、新人作家を一から育てることにはまだ限界があると思います。

樹林伸氏や長崎尚志氏の場合、まず彼らは優秀な社員編集者でしたので、メガヒット作家や作品を自分の判断で最初から手がけることができたわけです。その実績があり、また有力な作家との強固な信頼関係を築くことができたので、会社から独立することができたのだと思います。

優秀なマンガ編集者には二種類が存在します。(A)マンガの仕事が根っから好きな人 と、(B)サラリーマンとして優秀な人 です。(B)は、企業の中で順調に出世していきますが、(A)の人は出世そのものがイヤだったりします。編集長より上に出世してしまったら、現場で作家と作品を作っていくことができなくなってしまうからです。樹林さんも長崎さんも、典型的な(A)タイプのマンガ編集者です。

「KINO」Vol.7の対談で、樹林さんと長崎さんがこのような発言をしていました。

樹林 僕は長崎さんを前にしてこう言うのもなんですけど、編集長になる前に辞めようと思っていて、ちょうど雑誌(「少年マガジン」)が目標だった日本一の部数を樹立したんで辞めたんです。

長崎 編集長になる前というのは、正しい選択ですね(笑)。僕も会社に20年くらい居ましたけど、5回くらい辞めようとしています(笑)。だいたい2~3年おきに辞めたくなって、その都度、どこかの誰かに止められるという「ためらい辞職」を何度もやってるんです(笑)。

普通のサラリーマンからすれば、浮き世離れした会話に聞こえるでしょうが、彼らの素直な本音を吐露した会話だろうと思います。彼らは、「超」がつく優秀なマンガ編集者であって、それゆえサラリーマンとしては失格だったわけです。しかし、社内の派閥争いや出世競争に汲々とするくらいなら、好きなマンガ編集に没頭したかったということなのでしょう。そしてそれ(独立)は、今のところ成功しているということなのだと思います。樹林さんなど、「独立して収入は増えました」と言っているのだから、たいしたものです。

そもそも講談社や小学館は、国内企業ではトップクラスに給料がいい会社だと言われています。それでも独立したのですから、彼らはよほどマンガが好きなのだろうし、自信があったのでしょう。

今後は、中小の版元で十年くらい編集経験を積み、初版十万部クラスの作家何人かとの信頼関係を築きあげることができれば、むしろそちらから「マンガ・プロデューサー」が続々と現れてくる可能性はあると思います。

たとえば、あずまきよひこ氏を見いだして彼と会社(トライアスロン、よつばスタジオ)を作った里見英樹社長のような人も出てきています。里見さんとはまだお会いしたことがないんですが、完全にあずま氏のマンガ・プロデューサーであり、本業はデザイナーなので『あずまんが大王』や『よつばと!』の装丁を手がけるだけでなく、あずま氏と出版社の間に入ってあずま氏付きの担当編集者に近い仕事をしていると聞きます。あずま氏は里見氏の会社の「社員」であるところもユニークです。

里見氏は編集者出身ではありませんが、 マンガを見る目があって企業との交渉能力があれば、マンガ・プロデューサーはできるといういい例ではないかと思います。今後、こういうパターンは増えていくでしょう。

(※ 6月26日訂正 このエントリを読まれた里見英樹氏からメールがあり、
「自分の本業はデザイナーではなくあくまで編集者である」
「装丁は、デザイナーに発注するより自分がやったほうが早いのでそうしている」
「あずまきよひことは編集者として知り合い、彼の才能をサポートするための会社を設立した」
「自分の仕事は、ほぼエントリで書かれているプロデューサー(エージェント)的なものだが、エントリにあるような、マンガ界の危機を感じて始めたというわけではない。あくまで、あずまきよひこの才能と出会ったから」

ということでした。本当なら別途エントリを立てたいところですが、ご本人が、あまり大げさな扱いはしてほしくないとのことで、エントリ内修正という形にとどめました。里見さん、わざわざありがとうございました。)

●アウト・ソーシングとしてのマンガ・プロデューサー

出版社にとっても、フリーのマンガ・プロデューサーには給料を払う必要も退職金を払う必要もありません。外注の編プロに編集を丸投げすることは中小版元では80年代からありましたが、近年、大手出版編集部でもアウト・ソーシング化に拍車がかかっており、たとえば俺がこないだまで仕事していた「IKKI」では、十数人いる編集者の中で、小学館の社員は編集長と副編集長だけです。

講談社は以前から編プロ率が高かったですが、こうした流れは企業側からすれば、業績不振の雑誌が潰しやすくなるということであり、マンガ家ばかりではなく現場編集者も、だんだんシビアーな状況に置かれつつあるということは言えるでしょう。

しかし見方を変えるなら、腕に覚えのある編集者はどんどん独立して、作品のヒットに応じたリターンさえ受けられるならそちらにメリットを感じる人も出てくるでしょう。「マンガ・プロデューサー」は、確かにハイリスク・ハイリターンな仕事なんですが、マンガ状況を面白くする可能性を持った存在だと俺は考えています。長崎尚志さんは、先の対談の中で、こう言っています。

長崎 希望としては、カンパニーエディターと、フリーのエディターってのが、半々くらいになってくれたらいいなと思っているんです。なぜかというと、マンガというのは、娯楽のワン・オブ・ゼムにどんどんなっていきますから、やっぱり、これからはもうちょっと厳しい時代に入っていくと思うんです。そうするとマンガ家さんは淘汰されるけど、編集者はどうなのって話になってくる。自然と編集という仕事も厳しい環境に置かれますよね。逆にこれを機会に腕に覚えのある編集者がフリーになればいいということです。そういう人はやった分だけ自分に何か得られるわけですし、マンガ産業も質を保てると思います。(「KINO」vol.7)

長崎さんの発言の真意は、いろいろ考えられると思いますが、要は

編集者も失敗したらクビになる緊張感を持て

ということではないでしょうか。それは確かにリスキーな世界ではあるのだけれども、現実に作家は日常的にそういう緊張に晒されているわけだから、編集もそういう立場で作家と対峙しろということでしょう。そこに、マンガを面白くするカギがあるのだと。

60年代に斜陽になった日本映画界は、監督や俳優を独立させて彼らにもリスクを分担させることで、産業としての生き残りを図りました。

望むと望まないとに関わらず、これからはマンガもその道を歩むのだと思います。俺は最初からフリーですから、むしろこれは望むところなんですけど。これから、フリーとしては本当に面白い時代になっていくのだと思っています。まだ書き足りないこともありますが、とりあえず今回はこれまでにしたいです。読んでいただいて、ありがとうございました。 (補足につづく)

http://memo.takekuma.jp/blog/2008/06/post_4da3.html
↑マンガ界崩壊を止めるためには・第1回


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“マンガ界崩壊を止めるためには(6)” への7件のフィードバック

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