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2008年8月13日

スピードレーサーはなぜ不入りなのか

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またしても映画ネタで恐縮なんですが、昨日新宿で『スピードレーサー』見てきました。小飼弾さんのエントリがなかったら、正直、DVDが出てから見ようと思っていた映画でした。

http://blog.livedoor.jp/dankogai/archives/51093854.html
↑小飼弾「まさに動漫 – 映画評 – Speed Racer」

上のエントリで、小飼家では『スピードレーサー』が夏休み映画ダントツの第一位であり、まさに「動く漫画」なのだが宮崎アニメとは対極にあり、編集家を名乗る竹熊には見逃せない映画であるとまで挑発されては、見ないわけには行きません。

結論をここに書きますと、見てよかったです。小飼さんありがとうございました。今日見にいった新宿ミラノ座では、ミラノ座1の隣のゲーセンの4階にある一番小さい「ミラノ座3」という小屋でかろうじて上映していたのですが、俺以外に10人も入っておらずガラガラであり、これはもう上映打ち切りは遠くないと思いました。たぶん夏休み終了を待たずして劇場では見られなくなると思われますので、これ読んで気になった読者は、早めに上映館に行かれることをお勧めします。これは大きいスクリーンで見ないと価値が半減する映画だと思われますので。

見てよかったというのは、まさか同じシーズンにもう一本、『崖の上のポニョ』に匹敵する基地外映画が見られるとは思わなかったからです。作品のベクトルはまったく違うのですが、基地外度ではこちらも負けていないというか「見た目における狂気度」では『ポニョ』を遙かに引き離しております。『ポニョ』は、見た目は普通のアニメーションで、特に狂ってませんからね。内容はもの凄く狂ってますけど。

『スピードレーサー』の狂いぶりを説明するのは難しいですが、本編を見ればわかります。ネットではいくらでもトレイラーが見られますけど、俺に言わせれば公開されている映像はどれも穏健なものばかりです。(↓以下はユーチューブにあったあちら版のトレイラー)

上のトレイラーが一番派手かなと思って紹介しましたが、実際の映画の凄さは、映画館の大スクリーンで見なければ真価がわかりません。通常、映画の宣伝というものは、その作品の一番派手なところを抜き出して編集し、1のものを10ぐらいに見せてお客の気を惹こうとするものなのですが、「スピードレーサー」に関しては、どの予告も記事も、この映画の本質をまったく伝えていません。記事によっては、まるで家族の愛に包まれて巨悪に立ち向かう主人公の姿を描いた感動大作みたいに思えます。

いや、まあそれでも間違いではないんですけど。プロットレベルでは、まったくその通りの映画なんです。しかし真の面白さは、プロットではわからない部分にあるのです。この映画、宣伝が完全に失敗しています。これでは見ようという気にならず、映画館がガラガラなのも無理はありません。

主役は一応生身の役者さんなんですが、それ以外は全部原色ギトギトのCGで描かれていて、その意味では『少林サッカー』をさらに超現実的にしたような映画です。あまりにも映像がドラッギーなので、ストーリーだけは何が何でもわかりやすくしてあるのだと思います。そこでバランスをとらないと、いきなり観客にLSDを呑ませるようなもので、気持ち悪くなる人が続出する恐れがあったのでしょう。

見ていた俺は、まるで「最終鬼畜道化師ドナルド」のフラッシュ映像を見ているような気持ちになりました。今年の正月にニコニコ動画にアップされて、「らんらんるー」のセリフとともに、洗脳動画として話題になったアレです。

http://jp.youtube.com/watch?v=Nhizo7KrZrw

見ていて前頭葉がトランス状態になる感じが↑に似ていると思ったのですが、もちろん『スピードレーサー』はちゃんとストーリーのある映画にはなっております。そこは安心していただきたいですが、映像酔いを起こす人がいるかもしれません。

実写とCGを織り交ぜた映像もここまでくると新しすぎて、確かに宣伝しようがない映画かもしれません。「愛が○○を救う」とか「人生の価値はお金じゃない」とか、「やっぱり家族が一番」とか、そういうとってつけたようなテーマもテンコ盛りなんですが、こういうわかりやすいものがあるからこそ、映画会社も製作にGOサインを出したのでしょう。

かつてスタンリー・キューブリックが、映画史上最も重要な作家としてエイゼンシュタインとチャップリンを引き合いに出したことがあります。この時キューブリックは、「エイゼンシュタインはスタイルが百点で内容が零点、チャップリンはスタイルが零点で内容は百点」と評して、「どちらも素晴らしい作家だが、どちらもダメだ」と言ったのでした。

このキューブリックの言葉を使えば、『スピードレーサー』のウォシャウスキー兄弟も「スタイル百点、内容零点」ということになります。いや、一応エイゼンシュタインの場合は「革命の大儀」がありましたから本人的には内容百点だったかもしれませんが。まあしかし、ここまで映像がスタイリッシュだと、なまじ内容があったら脳の処理が追いつかないかもしれません。

そういうわけで、俺は『スピードレーサー』を映像トランス・ムービーとして大いに楽しんだわけですが、『ポニョ』が大ヒットしているのに、これが大コケというのは解せな……いや、やっぱり分かるな。本来こういうのは売れちゃいかんと思うのですよ。『ポニョ』も売れてはいけない映画だと思うんですけど、何と言っても宮崎アニメだし、ポニョもかわいらしく見えるし、一見普通のアニメに見える巧妙な作りですからね。でも子供の脳に与えるダメージは『ポニョ』のほうが強いかもしれませんよ。

『スピードレーサー』は、ものすごいオタク臭い映画であるとは言えます。日本のオタクとはベクトルが違いますが。日本の『マッハGO!GO!GO!』が原作だということもあるんですけれども、このアニメも俺の世代には懐かしいというだけで、今の日本のオタクに訴求力があるとは思えない。この映画のオタクっぽさは、日本のそれとは明らかにベクトルが違うんですよ。

アメリカの小学生が脳内で描いた妄想を、一切の制限なく大金かけて映画化したような作品です。こういうものができてしまうのがCGの恐ろしいところなんだけど。ウォシャウスキー兄弟としては、日本の観客を相当当て込んだ作りにしたと思いますが、そこは外れましたよね。オタクはオタクでも、萌えオタっぽい要素は皆無といっていいです。

もともと宣伝の極めて難しい作品ですし、作品そのものは凄いんですけど、俺のような変態映像フェチ以外の誰に訴求するのかよく分からない映画でした。そこが残念といえば残念でしたね。

少なくとも俺にしても、映画館でもう一度『スピードレーサー』を見るとは思えないです。ああいう映像は五分見れば十分なので、とにかく体力を消耗しますから。DVDは買うかもしれませんが。

一方の『ポニョ』ですが、今度は新宿バルト9までDLP方式の上映で見に行きたいと思っています。前に『千と千尋』のDLP上映を見て、あまりの鮮明さにビックリしたことがあるので。ここまで無意識に突き刺さる映画というのもなかなかないですから、そこが『ポニョ』の底の知れなさですよね。『スピードレーサー』は、よくも悪くも見たまんまではあるので、個人的には『ポニョ』に軍配を上げます。しかし『スピードレーサー』が、もしDLPでやるならぜひ見たいですね。


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| コメント(6)

“スピードレーサーはなぜ不入りなのか” への6件のフィードバック

  1. 富久亭日乗 より:

    映画「スピード・レーサー」(2008年、米)

      ★★★★★  「Matrix」(1999年)3部作を監督したLarryとAndyのWachowski兄弟が、 タツノコプロのアニメ「マッハGoGoGo」を実写で映画化。 原題の「Speed Racer 」は「マッハGoGoGo」のアメリカでのタイトルでもある。  Racer家はレース一家。 長男Rex (Scott Porter )はレース中事故死する。 二男のSpeed Racer (Emile Hirsch)も 優秀なレーサーで、 不正をたくらむ実業家のレーシングチーム に誘われるが、その申…

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  4. 「蛇の卵」 より:

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    【速度】★★★
    【笑い】★★★
    【珍走】★★★★★
    【メカ】★★★★
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    【エロ】
    東京ドームのプレミア試写会でしたよ。
    昔、東京ドームの試写会に行ったことあるんだけど、東京ドー…….

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