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2009年1月22日

オンライン出版本を買ってみて

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おととい中野晴行氏の新刊『まんが王国の興亡』を書評(→★)しましたが、これはインターネット上のサイトからダウンロードのみで販売しているオンライン電子出版という形式でした。

http://www.ebookjapan.jp/shop/special/page.asp?special_id=itv003
↑E-BOOKJAPAN 「まんが王国の興亡」販売ページ(525円)

著者の中野晴行氏によれば、あくまで実験的なものだが、将来有望な書籍販売方式である電子書籍のオンライン販売という形式で、一度本を出してみたかったということだそうです。実際にそれで本を販売してみなければ、メリット・デメリットはわからないだろうということを俺宛のメールにも書かれていました。

なるほど、この「まんが王国の興亡」という本は、「なぜ大手まんが誌は休刊し続けるのか?」というサブタイトルからもわかるように、直接にはマンガ業界(マンガ出版)の売れ行き低迷という状況に対して警鐘を鳴らす本なのですが、同時にそれは、マンガに事実上依存している出版界全体にも警鐘を鳴らしているのです。

出版界の危機のうち最大のものは、版元・取次・書店という出版流通ルートが動脈硬化を起こしている問題だったりするので、そう考えると、このオンライン電子出版という形式は、出版流通の問題点を解消するための切り札的なものとして、かねてから期待されているのです。

もちろんこの「期待」は、著者ないしは版元レベルでの期待であって、取次会社や書店にとっては商売そのものが成り立たない悪夢的な事態だったりするのですが。逆に考えると、電子書籍のオンライン販売そのものは、昔から注目されていたにも関わらず、一向に普及する気配が見えなかった理由は、ここにあったと言えます。

つまり、現状の流通システムを壊してまでオンライン電子出版に参入する度胸は、どの出版社にもなかったということなのでしょう。

しかし既成の出版界のしがらみからは無縁の、イーブック・イニシアティブ・ジャパンのような新興企業が、最初からオンライン販売を目的にしてこのサービスを始めるならば、状況は異なります。あとは中野さんのような、この方面に理解があるチャレンジングな著者が現れればいいということになります。

と、ここまで書いてイーブック・イニシアティブジャパンの会社概要を見てみたら、株主に凸版印刷や小学館、廣済堂などの出版関係会社も名前を連ねていることに気がつきました。さすがに取次会社や大手書店の名前はありませんでしたが。純粋に出版社の立場からすれば、在庫リスクの発生しないオンライン電子出版は、やはり魅力があるということなんでしょう。すでに既刊本のオンライン販売を始めている出版社もありますが、まだおっかなびっくりな印象が俺にはあります

http://www.ebookjapan.jp/shop/info/profile.asp
↑イーブックジャパン会社概要

そして実際に、中野さんはこの本をオンライン出版しました。俺の知人のライターの中では、新刊自著のオンライン販売に踏み切ったのは中野さんが初めてで、そのチャレンジ精神はさすがだと思いました。

なお、俺が「オンライン無料マンガ誌花盛り」などのエントリで書いた、既成版元の「オンライン雑誌進出」の動きについては、ここで書いた意味とは違います。あれらは、あくまで書店で紙のマンガを売るための宣伝としての意味合いが大きいからです。宣伝だから無料で出せたりできるのです。俺がここで書いているのは、はじめから電子書籍として作られ、オンライン限定で販売される本についてです。お間違えなきよう。

http://memo.takekuma.jp/blog/2008/11/post-41f7.html
↑たけくまメモ「オンライン無料マンガ誌花盛り」

さて、以上の状況を前提にして、また中野さんのチャレンジ精神への敬意と、『まんが王国の興亡』の本としての面白さを強調したうえで、あくまで読者として感じたいくつかのメリット及び問題点について、書いてみたいと思います。

●メリット

1 立ち読み機能がある。

これは、普通の本屋さんでは当たり前のことですが(シュリンク包装されたコミックを除く)、こういうダウンロード販売のコンテンツでも、ある程度中身を確かめてから購入したいと考えるのが人情です。『まんが王国の興亡』は、プロローグから第一章の途中までを無料で、購入版と同じ状態で読むことができます。通常の書評では立ち読みはできません。アマゾンにも立ち読みができる機能がありますが、すべての本が読めるわけではなく、不十分な機能しかありません。

それ以外にも、宣伝ページに詳細な目次や、ヴォリュームのある著者インタビューがついていて、購入を検討するには親切な作りになっているといえます。

2 手頃な価格で、決済が簡単

この本の場合、価格が525円と通常の新書なみの価格か、あるいは少し安くなっています。イーブックの場合、決済はクレジットカード、イーバンク決済、電子マネー、提携プロバイダ(NIFTYなど)からの課金とともに引き落とす方法など、多彩に用意されています。

3 自宅に居ながらにして何時でも本が買える。

正直、これは便利だと思いました。特にこういう書物は、ネットサーフィン中にブログ等での紹介を見て、興味を持つことが多いと思います。その時にクリックひとつで購入まで出来るということが肝心なのだと思います。

4 時間を問わず、購入したその場で読める

おそらくこれが最大のメリットではないかと思うのですが、たとえ夜中であろうと、ダウンロードした瞬間から中身を読みはじめることができます(無料専用ビュワーのインストールが必要)。これはアマゾンなどのオンライン書店とは異なる最大の「売り」でしょう。当たり前ですが、オンライン書店では、購入した本が自宅に届くまでその本を読むことができません。

5 専用ビュワーが読みやすい

専用ビュワーを無料でインストールでき、これによってキチンと書物としてレイアウトされた状態(もちろんタテ書き)で読むことができるので、生テキストで長文を読むような煩わしさがありません。付箋を貼ったり栞をはさむこともできます。

●デメリット

1 読むための環境が限定されている

これはおいおい改善されていくとは思いますが、OSがwindowsに限定されていたり、ブラウザも現時点ではIEにしか対応していません。俺は条件に合致していたからスムーズに読むことができましたが、MACユーザーは現時点では切り捨てで、そちらからは不満がでるでしょう。

2 専用ビュワーでないと読めない

これはおそらく不正コピー対策もあるのだと思いますが、イーブックのコンテンツは本と一緒にダウンロードする専用ビュワーがないと中身が読めないようになっています。このため、ビュワーをインストールしたPC以外では読むことができず、ベッドで寝転がって読んだり、通勤途中に電車の中で読むことができません。

この本は非常に新書向きのテーマで、ボリュームもだいたい新書くらいです。ページが467ページと一見多く見えますが、読みやすさを考慮した非常に大きなフォントで組まれているので、200ページくらいの新書を読む程度のスピードで読むことができました。

で、あるならば、新書と同様の読み方ができないこの本の作りは、読んでいて多少のストレスになったことは確かです。

3 書き込んだり、テキストをカット&ペーストで引用することができない

これも専用ビュワーのデメリットのひとつ。気になる箇所に付箋を貼ることはできるのですが、文章のセンテンスにアンダーラインを引くことができません。そして、通常のテキストのように気になる文章をカット&ペーストでブログ等に引用することもできません。

不正コピー対策であることは痛いほど分かるんですが、これは正直、不便だと感じてしまいました。

もっとも普通の本の場合でも、アンダーラインは簡単に引けますが、カット&ペーストはもとからできませんから、本をPCの横に置いて、引用箇所をキーボードで入力することになります。これと同じではないかと言われればそれまでなんですが、たとえばブログで紹介文を書こうと考えたとき、ブログの入力画面を表示して、専用ビュワーのウィンドウと交互に切り替えながら引用することになります。

はっきり言ってこれは手間です。いっそ必要なページだけコピーして、それを横目で眺めながら引用できればいいと思ったのですが、

4 コピー(プリントアウト)をとることができない

ことには参りました。これはしかし、不正コピー対策としては当然の機能なのかもしれないんですが、世の中には不正コピーがあると同時に、不正ではないコピーもあるわけなんです。

不正ではない「適正コピー」の需要があるからこそ、たとえばコピー機というものがあったり、CD-RやDVD-Rのような、コピーすることを前提にしたメディアがこの世に存在するわけです。

しかし、それが適正コピーなのか不正コピーなのかは、実際にコピーされた結果を見てみないと判断できませんから、一律に機械的に「コピーそのものをできなくしてしまおう」というのが、こうしたネットサービスの基本理念なのでしょう。

そのこと自体は理解できます。できますが、普通の本ではできることができないという事実は、素朴な感情として不便であるには違いありません。となると、オンライン電子出版とは別に「紙の本」としても読みたいという声が出るのは当然だと思います。

実はこのあたりのことを中野さんにメールで聞いてみたんですが、中野さんももちろん承知されていて、「専用ビュワーを強化して、アンダーライン機能をつけるということは検討されている」「紙の本も同時に発売することも検討課題になっている」というイーブック側の声を教えていただきました。

ただ、「紙の本」の同時発売というのは、なかなか難しい問題が山積しているようです。俺はてっきり電子出版専門であるイーブックが難色を示しているのかと思ったら、そうではなく、「電子出版と紙の本を同時出版することは、お互いの業績を伸ばすことに繋がる」とイーブックも考えているそうなんです。

たしかに電子出版と紙出版では、メリット・デメリットが完全な相補関係になっているので、共存が可能であるばかりか、業績を伸ばすことにも繋がると俺も思いました。実際に俺は、紙バージョンで同じ本が出たら買いますもん。

本には、単に「読む」だけではなく「使う」という側面があります。たとえばある本を読んで感想をブログに書くことも立派に「本を使う」ということです。学者や評論家などは、「本を使う」ことのプロであるという言い方もできます。そして本を使うためには、適切な引用が不可欠なのです。

そうして“使われた”本は、そのこと自体が宣伝となって、新たな読者を増やすことにも繋がるはずなのです。

イーブックに限らず、コンテンツ製作・販売業者には、ユーザーをただ与えられたものを享受するだけの、受動的な存在だと考える傾向が強いように思います。しかし“使われない”コンテンツは、その場で消費されて終わるだけのコンテンツだといえます。

もちろん電子メディアの特性として、無劣化コピーが可能なので、なんらかのガードをかけておかないと丸ごとコピーが出回って経済的ダメージを受ける、という心配をコンテンツ販売側が持つことは当然でしょう。

で、あるならば、やはり電子出版は「読むこと」に特化して、安価にコンテンツを供給することに務め、同時に紙の本も出版して、「本を使う」需要にも応えるべきでしょう。それは紙メディアの出版システムにとっても必ずメリットがあるだろうと俺は思います。


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