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2009年4月29日

健太郎、うどんが出来たぞ

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「健太郎、飯だ。うどんを作ったから、食え」

と父親が声をかけてきました。退院以来、うちでは基本的に父親が食事の用意をしています。なにしろ俺は料理がまったくだめ。約20年間の一人暮らしのうち、自炊したのはトータル一週間くらいで、あとはオール外食で済ませてしまったくらいですから。

父親が作ったうどんを食べるのは初めてであります。母親が存命のころは、たまにうどんを作ってくれましたが、実をいいますと、俺は母親の作るうどんが好きではありませんでした。俺の母親は関東人で、彼女のうどんは関東特有の丼の底が見えない濃い色の出汁であるばかりか、汁とうどんを分けて茹でることをせずに、最初から一緒に入れてぐつぐつ煮込むため、汁が煮詰まってゲル状の粘性を帯びてドロドロとなり、それでもかまわず煮込むのでうどんが汁をすべて吸収して、しまいには子供の頃「少年マガジン」の秘境特集で見た「アマゾン奥地に生息する全長3メートルの大ミミズ」の如くにブクブクに肥大してしまい、それしか食べたことがなかったからです。

食事は「慣れ」とは申しますが、俺はおふくろの手料理に慣れたことがなく、なかでもうどんについては「うまい」と感じたことが一度もありませんでした。母親は「煮込みうどんよ」といいましたが、店の品書きにある煮込みうどんとは何かが違うような気がしました。

なぜなら、彼女はソバを作るときにもグツグツと煮込むからです。そうして出来たソバは、やはりスープをすべて吸収してしまい、うどんのような状態で出されるのが通例でした。いわゆる「ソバがのびる」と申しますけれども、俺は長らく「ソバがのびる」とはどういうことなのかが理解できませんでした。要するに、子供時代の俺は「ビロンビロンにのびた状態のソバ」しか食べたことがなかったからです。

同様に、俺は「このうどん、コシが違うね」というときの「コシ」というものが何を指すのかが理解できませんでした。なにしろ、うちで出されるうどんは「アマゾンの大ミミズ」状態でしたから、コシもへったくれもないわけです。口に入れるとベッチョリして、粘土を噛んでいるようなグッチョリした食感があるのみ。

それが高校の修学旅行で四国に行ったとき、本場の讃岐うどんを食べて、シコシコした弾力のある歯ごたえを生まれて初めて体験し、「これが“コシ”というものか!」と感激したことが昨日のことのように思い出されます。

「うどんって、本当はうまいんだなあ」と感激した俺は、すっかり関西うどんや讃岐うどんのファンになってしまいました。この春から京都に来るようになって、毎日のようにうどんを食べております。俺は東京生まれの関東育ちなんですけど、うどんに関してだけは母親のトラウマが強烈で、いまだに東京で食べる気がしません。いや母親のうどんは「関東の煮込みうどん」ともおそらく違うもので、「母親煮込みうどん・アマゾンミミズ風味」であることはわかっているのですが。

母親のうどん話で思わずヒートアップしてしまいました。父親のうどんの話でした。父親のうどんを食べるのはこれが初めてでしたが、彼は九州出身ですので、まあ母のアマゾンミミズうどんとは違うだろう…と思っていたんですが……甘かったです。

目の前にあるそれは、映画「砂の惑星」に登場する全長100メートルの砂虫(サンド・ワーム)のように膨張し、汁がほとんど見えないような「父親うどん」だったのです。とりあえず我慢して食べましたが、うどんの麺だけ食べたら汁は丼の底1センチくらいしかありませんでした。どうやら汁は麺がほとんど吸収してしまったようです。俺は叫びました。

「なんだよこのうどん。母さんのうどんと同じじゃないか。なんで汁がなくなるまで煮込むの?」

「俺は、煮込みうどんが好きなんだ」

「これは煮込みうどんではなく“煮しめうどん”だよ。父さんは九州出身だろ? 九州のうどんもこうなの?」

「いや。こうではなかった」

「うどんの汁はこんなに色が真っ黒なの?」

「いや。黒くはなかった」

「じゃ、なんでこうなるんだよ。麺は汁とは分けて茹でてさ、食べる直前に汁とあわせればいいでしょう!」

「どうせ最後に一緒にするんだから、最初から麺と汁を一緒に茹でれば合理的だろう!」

「合理とかそういう問題じゃないでしょ。問題は、お父さんはこれをうまいと思うのかどうかなんだよ」

「うまい! 俺は煮込みうどんが好きなんだよ! 」

以上、うららかな春の日差しも眩しい昼下がりの父子の会話でした。


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| コメント(1)

“健太郎、うどんが出来たぞ” への1件のフィードバック

  1. うどんは「おかず」です

    犬を洗う少し前かせ腰痛を再発。 しゃがんで洗っているうちにトドメをさしたみたい。 歩くのもなかなかしんどいです。 で、竹熊氏の父親の話を読んで吹いたら痛みが酷…

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