たけくまメモMANIAX

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2009年6月6日

「担当がつきました」とはどういうことか

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多摩美や精華大で日々、マンガ家志望の学生と接していますと、中には新人賞に応募して、佳作や奨励賞に入賞した人がいるわけです。おめでとうございます。出版社主催の新人賞に入選すると、多くは担当編集者がつくわけですね。これは佳作や奨励賞のような次点の賞であっても、同様ではないかと思います。

それで、奨励賞を受賞して、俺に「先生、僕に○○社の担当がついたんですよ」と嬉しそうに報告してくる人もいます。その顔は、嬉しそうなだけでなく、誇らしげだったりもするんですが、そういう学生に会うたびに「ちょっと待て」と俺は思うわけです。

「ちょっと待って。その担当さんと、作品を掲載する話をしているの?」

と俺が尋ねると、

「いえ、ネームを持って行くと、見てくれます。雑誌に載る話は、まだありません」

と、だいたい同じ返事が返ってきます。

先日、精華大で学部長の竹宮惠子先生と話したときも、そういう学生の話題になりました。竹宮先生の教え子にも、担当がついた学生が何人もいるそうです。しかし先生は、ため息まじりにこう言いました。

竹宮先生「担当がついたというだけでは、まだ何も始まってないんですけどね」

「僕も、そう思うんですが…」

竹宮先生「雑誌に一回載っただけで、喜ぶのは早いと思うんですよ。その次の原稿依頼が来て初めて、自分はプロになれたと言えるんじゃないでしょうか」

さすがは大ベテラン。問題の本質がズバリと言い表されています。毎年マンガ家デビューする人が何人いるのか、統計を見たことがないのでよくわかりませんが、仮に「雑誌に初めて自作が載った」ことを「デビュー」と見なすとして、これが1000人いるとすると、「次の仕事が来る人」はその三分の一もいないでしょう。さらに、5年後も仕事が来ている人は、何人いるのでしょうか。3人とか、多くて5人とかそんなものではないでしょうか。

昔、あるベテラン編集者が、編集後記にこういうことを書いていました。

「マンガ家は、10年続いて一人前、20年続けば天才、30年やってる人はバケモノだ」

俺はマンガ家ではないので、なんとか25年やっていますけれども、文筆業で40歳、50歳越える人を見ると「どうかしてる」と思います。ましてやマンガ家の生活は過酷なんてものではないですから、20年続けば天才だというあの編集者の言葉は、リアルな実感としてわかります。

ひるがえって、「担当がついた」と喜んでいる学生さんに言っておきたいことがあります。まず「担当がついた」だけでは、「持ってくれば、ネームを見てやるよ」というだけのことにすぎません。そうして、16ページから24ページ程度の作品を描かせて、「代原用原稿」として預かっておくだけです。

代原というのは、連載作家の誰かが〆切りに間に合わず原稿を落としたときに、代わりに載せる原稿のことです。プロの編集者は、緊急事態に備えて、常に何本か「代原」をプールしておくことが普通です。

もちろん埋め草の代原から連載が決まって、ヒット作家になる例がないではありません。昔も今も、連載作家が落とすときは、新人がデビューする最大のチャンスなのです。ですから、「ネームを見てやる」だけであっても、編集者との付き合いができること自体、チャンスであるには違いがありません。

しかしそれは、あくまで「補欠の補欠」に入れてくれたということに過ぎないので、実はまだ補欠にすらなっていないということを肝に銘じるべきでしょう。

たとえるなら、小学校のプールには、塩素の浴槽が必ずありますよね。体育の時間にプールへ入るには、まず塩素の浴槽に浸かってから、シャワーを浴びて準備体操をし、それからプールに入って泳ぐという段取りになります。

マンガ家志望者にとって「担当がついた」というのは、プールで泳ぐ前の、塩素の浴槽に入ることを許された段階に過ぎないと考えるべきではないかと思います。連載をもらう(プールで泳ぐことを許される)というのは、さらに何段階かを経なければなりません。

それだけではなく、連載を一回やっただけで安心するのはまだ早い、「次の仕事」が来て初めて、プロになったと喜ぶべきだと竹宮先生はおっしゃっているのです。

俺は今、まさに「大学でマンガを教える」という立場になって、こういうことをイヤでも考えなければならない立場に立たされています。これからも、折りに触れていろいろ書いてみたいと思います。


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| コメント(5)

“「担当がつきました」とはどういうことか” への5件のフィードバック

  1. ココでとまっている場合じゃない

    今の私を一言でいうと
    停滞・・・
    今日、「たけくまメモ」というブログを読んでいたら
    「担当がつきました」とはどういうことか
    という記事をみつける。
    そして血の気がうせる。
    私は今回この「脚本①」を始めたのが去年の年末。
    助監督の仕事を持ってきてくれたプロ…

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