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2009年10月18日

就職相談に不向きな先生

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大学の先生などをやっていると、よく学生から就職相談を受けるのですが、たぶん俺くらい就職相談に向かない先生というのも多くはないでしょう。それというのも、俺は48歳で大学に「就職」するまで、正社員というものをやったことがなく、一度も「就職しよう」と考えたことがなかったからです。今回の大学への「就職」にしたところで、先方から舞い込んだお話に乗っただけですので、やはり就職したという意識が希薄です。

そもそも俺は20歳のときに学校を辞めて家出した人間ですので、最終学歴は高卒ですし、なんの資格もないし、これほど就職に向かない人間もいないというものです。よく、生きてこられたものだと思いますが、人間、死にさえしなければ生きていられるものです。

こういう話を、先日、特任教授の六田登先生としていましたところ、六田先生も「俺も大学行ってないし、就職もしてない」というので、仲間がいたと思わず嬉しくなってしまいました。嬉しがってどうするという感じですが。

六田先生は、高校卒業後に家を出られて、しばらくは日本各地をあてどもなく放浪したり、路上でアクセサリーを売って生活されていたそうです。いわゆるヒッピーだったんですね。時代も70年代初頭だそうですし、その時代では若者として当然とは言わないまでも、そんなに珍しくもないパターンだったといえるでしょう。

六田 「池袋の路上でアクセサリー売ったことがあるんだけど。そしたらすぐ近くで絵を売る連中が現れて、こちらの売り上げが落ちたことがあるんだよ」

俺 「ああ。路上で売る絵というと、田舎の喫茶店に飾ってあるような、湖のほとりに白樺林があって遠くに雪山がある『ボブの絵画教室』みたいな絵ですね」

六田 「そうそう。それでさ、そいつらと抗争みたいになっちゃって。こっちのシマを荒らさないでくれと」

俺 「それは苦労されましたね」

六田 「そうしたらさ、“私の志集”ってプラカードを首から下げて詩集売ってる女の人がいるでしょう」

俺 「あああ、その人、まだ居ますよ。ここ25年くらいは新宿駅の西口付近の路上で詩集売っています。もう相当なおばさんのはずなんだけど、光線の具合によっては30代にも見えるし、年齢不詳でね。へえ。あの人、40年前は池袋に立っていたのか」(※)

六田 「うん。たぶんその人。で、その“志集”のおばちゃんが、実は路上のヒッピーたちの間では顔役でさ。仲裁してくれて、俺、仲良くなっちゃって。一緒にラーメン食べたりした」

俺 「志集のおばちゃんにそんな過去があったとは。知りませんでした。俺、昔からあの人見ているけど、詩集が売れているのを見たことがない。ずっと気になってましたが、怖くて、話しかける勇気がなかったんです。いつも路上で、虚空を見つめて立っているから」

六田 「それから僕はマンガ家になったから、一度も就職してないんだよ」

俺 「僕もそうなんです。僕は六田先生より十歳ばかり年下ですけど、やはり就職しないでフーテンしてました」

六田 「あの頃はそういう生き方が当然だと思っていたから。だから、正直学生から就職の相談受けると困惑しちゃって」

俺 「その気持ち、よくわかります。僕も、『将来俺が就職するとしたら、自分で会社を作る時だ』と考えていました。まさか、こんな具合で大学に就職するなんて想像もしてませんでした」

六田 「お互い、とんでもない場所に来ちゃったよね」

俺 「同感です。今はものすごい就職氷河期でしょう。就活に必死になっている学生を見ると、気の毒に思う反面、そんなに仕事が見つからないなら、自分で商売始めたらどうかと、うっかり思っちゃいますよね。まあ、昔とは時代が違いますから、自分の尺度で今の時代を計るわけにはいきませんけど」

と、まあ六田登先生と話をしていて、つくづく、六田先生も俺も就職相談には不向きな人間だなあと思いました。俺が知っている「業界」は出版界しかないですが、たけくまメモでさんざん書いているように、いまや出版業界は存亡の危機に立っています。

しかし、見方を変えるならこういう激動の時期にこそ新しい商売を興すチャンスだったりするんですよね。最近の新しい動きで、俺が気になっていることがあったりするんですが、近く取材して、たけくまメモで書きたいなあと思っています。しばらくお待ちください。

※追記 「志集のおばさん」の件ですが、コメント掲示板で教えてくださった人がおり、実は二代目であることがわかりました。道理で、40年も路上に立ち続けていたはずなのに「妙に若い」理由がわかりました。詳しいことは、以下の北尾トロさんの文章をお読みになってください。

http://www.vinet.or.jp/~toro/genko/syowa2.html


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| コメント(2)

“就職相談に不向きな先生” への2件のフィードバック

  1. 竹熊さんの名言

    http://memo.takekuma.jp/blog/2009/10/post-0bbb.html 「人間、死にさえしなければ生きていられるものです」 当たり前っちゃあ当たり前だけど、かっこいい~ 篦棒な人々ー戦後サブカルチャー偉人伝 (河出文庫 た 24-1)作者: 竹熊 健太郎出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2007/12/04メディア: 文庫 私とハルマゲドン (ちくま文庫)作者: 竹熊 健太郎出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 2000/07メデ…

  2. 竹熊健太郎氏と北尾トロ氏と・・・。

    「私の志集」をご存じだろうか?
    東京近辺にお住まいの方ならば新宿駅などで見かけたことのある方も居るのではないでしょうか?
    私も高校生から20歳ぐらいまでは良く新宿に遊びに行っていたので
    何度か見かけたことがあるんですが
    20歳を超えたぐらいから遊び場所を替えたのでトンと目にしなくなりました。
    年齢不詳の女性が、新宿駅の駅前などで首から「私の志集」と云う札を下げて
    たぶん詩集と思われる物を売っていらっしゃるんですね。
    で、初めて視た時にはやっぱりひきました。
    なんか怖いなぁと・・・・。
    でも、その後…

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