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2004年12月25日

荒俣宏先生の引越しを手伝ったこと(1)

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さあクリスマスもそろそろ終わろうとしていますが、皆さんニャンニャンは済みましたか? 済んでない人も大丈夫! あんなの五分あればできるんですよ(by 手塚治虫)。

それはそれとして、クリスマスといえば俺の場合、どうしたわけか荒俣宏先生のことを思い出すんです。それというのも、16年くらい前のこの時期、俺、荒俣先生の引っ越しを手伝ったことがあるんですよ(プチ自慢)。いや手伝うつもりはなかったんですが、いろいろ事情がありましてね。

そのころの荒俣先生、すでに帝都物語が大ヒットしまして、一躍売れっ子作家になっていました。でも先生、神出鬼没すぎて編集者にもなかなか所在がつかめないことで有名だったんです。たぶん捕まらないことにかけては手塚先生以上だったのではないでしょうか。

俺は何度か荒俣先生と仕事をしたことがあるんですが、最初は先生、事務所もなくて大変でした。それが、ある時期から平凡社に「アラマタルーム」が出来たことがあって、ぐっと捕まえやすくなったんです。

Amazon.co.jp: 本: 世界大博物図鑑―Atlas anima (1)世界大博物図鑑―Atlas anima (1)世界大博物図鑑

そのとき私、ある企画のために、どうしても荒俣先生に取材する必要がありました。それで平凡社に電話をかけたんですが、先生はその頃畢生の大著『世界大博物図鑑』全5巻を編纂せられていたのです。あれはとんでもない本ですよ。どれだけとんでもないかは このサイト を読めばわかります。とにかく、作ろうと思い立っただけでもキチガイ沙汰です。値段もスゴイので買う方もどうかしてますが言葉の真の意味でのトンデモ本とは、こういう本のことを言うのではないでしょうか。

それでまあ、その時期の荒俣さんの住まいは事実上平凡社だったんです。平凡社に一室をもらって、そこで寝起きすることが多かったです。これが有名なアラマタルームです。間違えてはいけませんが荒俣さんは平凡社の社員じゃないんですよ。ただの出入りのフリーなわけです。それにタダ部屋を与えて電話まできちんと取り次いでくれた平凡社も偉かったと思います。

それでアラマタルーム、俺は何度か足を踏み入れたことがあったんですが、普通の6畳間くらいのスペースですよ。一応机があって、ただそこら中に本が散乱している部屋でした。もちろんアラマタルームですから、床に転がっているのが17世紀のフランスの手彩色図鑑とかですね。一度、うっかり本を踏みつけてしまったら、荒俣先生から「あ、注意してください……その本、250万円するんです」。

に、にひゃくごじゅうまんえんの本をそこらに放り投げておく先生も先生ですよ。先生、『帝都物語』がヒットしたときに、億を超える印税を手にされたわけですが、ほとんど本代に消えたんだそうですよ。どこをどうやったら本で何億も使えるんでしょうか。先生に言わせれば、文庫とか新書、ソフトカバーは本のうちに入らないんだそうです。

その時点で先生、確か一冊一千万円の本を購入していたはずですよ。『世界大博物図鑑』の資料に使うためで、実際資料だったんですが、「税務署がどうしても経費として認めてくれない」って、ぼやいておりました。一冊一千万もするような本は、税務署的には本ではなく、宝石や不動産と同じ「資産」扱いになるのだそうです。

先生「でも、ボクにとっては必要経費なんですよ!」

というような感じで、平凡社のアラマタルームではまさに先生の人生を費やした作業が黙々と進められておったわけです。

そんなわけで、平凡社に電話すれば簡単につかまるのか、と思われるかもしれませんが、そうは問屋が卸しませんでした。電話しても電話しても電話しても電話しても捕まらず、念のためもう一回電話したら捕まったりしました。当時は携帯電話もありませんでしたし。あるときなど、真夜中に平凡社に電話をかけたことがあります。

「夜分恐れ入ります。荒俣先生はそちらにいらっしゃいますか」
「荒俣さんは……いません
「はあ……(どこかで聞いた声だな)……あの、ひょっとして荒俣先生?」
…………
「荒俣さんですよね?」
「……荒俣の弟です

思わず「んなわけねーだろ!」と心の中でつっこんでしまいましたですよ。そんなこんなで、ようやくアポをとって「では何時何分にアラマタルームに来てください」となったとしても、安心はできないんです。先生にとってアポというのは、あくまでも「会えるかもしれない」という可能性の話であって、人生何が起こるかわかりませんから、会えないかもしれないわけです。私自身、何度すっぽかされたことでしょうか。でも不思議と恨む気にはなれないのは、先生の人徳でしょう。

それで、あるとき、ようやくのこと捕まえました。再度アポをとって、「夜ならいますから」と指定された時間にアラマタルームに赴きましたところ、なんと先生がいらっしゃったんです

「あ、アラマタ先生。やっと会えた。さっそくですが、お話を…」
先生「ああタケクマ君。申し訳ないんですがね、これから引っ越しがあって…」
「へ?……」

時計を見ると、夜の10時ですよ。これから引っ越し? それって夜逃げというのではないのですか。俺が先生の発言を理解できずにキョトンとしておりますと、

先生「いやこれから友人の車で引っ越しなんですよ。マジで。いえここ(アラマタルーム)のほうじゃなくて、自宅の引っ越しです。だからインタビューは今度にしてもらえませんか」

正直、先生に自宅があるなんてそのときはじめて知りましたが、冗談じゃありません。ここでハイそうですかと引き下がったら、次はいつ会えるかわかったものではない。それで「もちろん手伝いますよ! いや手伝わせてください」と、一も二もないですよ。今から思えば、あれは先生の作戦だったのかもしれないが、まあいいや。

そうこうするうちに引っ越し用のバンを運転する先生のお友達が何人か来たんですが、これから始まる世にも奇怪な引っ越しについて語るには、本日はもう時間がありません。これから外出して、友人とメシ食う約束があるんです。いや相手は男ですよ。ニャンニャンじゃなくて個人的にも残念です。続きはまた明日にでも。

※(2)へつづく→


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| コメント(20)

“荒俣宏先生の引越しを手伝ったこと(1)” への20件のフィードバック

  1. 長谷邦夫 より:

    荒俣さんは昔、徳間のパーティでしか目撃した
    ことがありません。たしかSF大賞だったかな。
    「賞金すぐ無くなりますから、貸してる人は
    すぐ取りに来て下さい」と言ってました。
    彼の妹さんが、新宿十二社・スタジオゼロの
    藤子スタジオにアシスタントとして在籍して
    いました。68年頃だったかな。
    「兄が長谷さんの名前を知っていましたよ」
    と言われました。
    多分同人誌「宇宙塵」(科学創作クラブ)
    同人だったからでしょうね。同人としては
    ぼくが先輩ですから。

  2. 帝都物語

    「たけくまメモ」の竹熊さんが荒俣宏さんと「帝都物語」のことを記事に書かれている。

  3. たけくま本人 より:

    うわ。荒俣さんの妹さんがスタジオゼロ?
    それは知りませんでした。ただ荒俣さんからは「妹がマンガ描いていた」というのは聞いたような気が…。
    荒俣さんご自身も漫画家志望で、若木書房に作品を持ち込んでいたそうです。そのあたりの話は、あとで書きたいと思います。

  4. 秋山哲茂 より:

    横から失礼します。
    荒俣さんの妹さんは「志村みどり」さんですね。
    「ドラえもん」の「ロボ子が愛してる」に登場する友だちロボットのロボ子は、志村さんの筆によるものです。
    その他学年誌などでも、オリジナルからTV番組のコミカライズまで幅広くご活躍されていました。
    ところで伝え聞いた話によれば、荒俣さんも「志村みどり」名義で少女まんがを書いていたとか。ご存知であれば、是非そのことについても触れていただきたくお願いします。

  5. たけくま本人 より:

    荒俣さんが少女漫画を描かれていたのは事実ですが、ペンネームが妹さんと同じかどうかはちょっと聞いてないです。

  6. かつぶし より:

    荒俣宏さんのこと→志村みどりさんのこと

    編集家・竹熊健太郎さんのブログ「たけくまメモ」に面白い記事があったのでトラックバックしてみる。
    噂に高い平凡社の「アラマタルーム」の壮絶な様子(250万の資料…

  7. 秋山哲茂 より:

    そうでしたか、それは残念。
    私も編集さん経由でちらと聞いただけの話でしたので、「竹熊さんなら!」と勢い込んでしまいました。
    さらにその挙句、ややネタ割れの書き込みをしてしまったような…。
    手塚先生の伝説に続き、楽しみにしております!

  8. ふじふじ より:

    荒俣さんもおもしろいですが、機会が有れば竹熊さんがため込んでいるであろう、水木しげる伝説もお願いします。

  9. たけくま本人 より:

    水木伝説は、もうひとつのジャンルになってますからね…今から新しい伝説を集めるのはツライですね。

  10. より:

    >これから始まる世にも奇怪な引っ越しについて・・・
    うおお。いいところで「つづく」。
    むちゃくちゃ、いいところで。
    木になる。木になって仕方がない。
    早く続きを・・・。仕事が手につかない。
    お忙しい年末年の暮でしょうが、
    お仕事・年越し準備の合間にでもお願いします。

  11. Tinkle-Tinkle より:

    気になるあの濃ゆ~い本屋

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