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2005年4月3日

【蔵出】幻の『色単』について

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Amazon.co.jp: 本: もえたん[新装版]もえたん[新装版]

本田透さんのインタビューを読んでいたら、なんですか『電波男』の担当編集者の斎藤氏って、あの『萌える英単語~もえたん』の編集者でもあると知ってビックリ(※註)。同時に、なるほど!とヒザをうってしまいました。なにが「なるほど」なのかはわかりませんが、なんとなく。

http://media.excite.co.jp/book/interview/200503/

※註 三才ブックスの斎藤氏から、「自分は『もえたん』には一スタッフとして参加しただけで、企画は第二編集部編集長の村中が行った」旨、メールがありましたので、ここに報告しておきます。

「萌え」については、俺は基本的によくわからないんですが、俺の心の中をサーチして、なんとかそれっぽい感情を現在引き出している最中です。引き出しが終了しましたら、改めてエントリーしてみたいと考えているところ。今回は「萌え」ではなく「単」について、もう少し書きます。

『もえたん』がヒットして以降、『○○単』みたいな本が雨後の竹の子みたいに出ました。とうとうホリエモンまでもが『ホリタン』を出したのは、前々回にもご報告した通りです。でも、ちょっと待ってください。ほとんどの日本国民は知らないと思いますけど、はるか昔、この俺様も、こういう本を一冊作っているんです。いや『奇跡のマサイ語』ではなくて。アレは表紙だけでしたが、これは中身もバッチリ詰まっている本なんですよ。詰まりすぎ、というか。

irotan-11983年に出た『色単~現代色単語辞典』(群雄社)がそれなんですが。知らなかったでしょう。色単語といっても、赤とか青とかエメラルドグリーンについて書いた本ではありません。いわゆる「H用語」と申しますか、エロ小説、ポルノ小説でよく使われるエロ単語を、シソーラス(類語辞典)として豊富な用例とともにまとめた、ほぼ類例がない本です。左がその表紙。

irotan-2irotan-3irotan-4

↑中身はこんな感じです。こんな項目だけで数千。見ているだけで気が狂いそうですネ。イラストは、ひさうちみちお先生に頼みました。

本棚の奥から引っ張り出してきましたが、個人的には大変懐かしい仕事です。というのはこれ、俺の初単行本なんですよ。出たのが83年ということは、俺は23歳ですね。共著者に名を連ねている庄内良助というのは、後にSM風SF小説でカルトな人気が出た友成純一さんのペンネームです。友成さん、この直前まで吾妻ひでお状態というか、アル中でしてね。幻覚まで見るようになって、最初の奥さんとは別れるわ、精神病院に入院するわ、大変だった時期でした。彼にとっては、これが仕事復帰第一作だったわけです。

で、俺はといえば、なにしろ初単行本ですからね。編集はほぼ百%俺がやって、中身については3分の2くらい友成さんの作業で、残りは俺、そんな感じでしょうか。なお「構成・神崎夢現」となっておりますが、神崎君はこの本のデザイナーなんですよ。デザイナーの名前を堂々と表紙に載せるというのは、彼が勝手にやったんだけども、すごい話でした。でもまあ、確かに彼のベストワークのひとつでしょう、これは。

irotan-5irotan-6irotan-7

企画自体は、この本の最初の版元である群雄社の明石賢生社長(故人)と、佐山哲朗編集局長とが呑みながら決めたそうです。お二人とも、バリバリの全共闘世代ですよ。70年安保で夢破れた男二人が、まともに就職などできるわけもなく、流れ流れてエロ業界にたどり着き、そこで立ち上げたのが群雄社だったわけですね。

「おい佐山、お前、生まれて初めて辞書買ってもらったときのこと、覚えているか」
「おお覚えているとも。中学に入るとき、親が『広辞苑』を買ってくれたな」
「それで、最初に引いた言葉はなんだ?」
「うーん。オマンコ、かな。さすがに載ってはいなかったが」
「そうだろう。俺は“尺八”を引いて興奮した覚えがある」
「だいたい、ガキが辞書をもらって最初に引く言葉なんて、そんなもんだよ」
「それだよ、佐山!」
「明石、まさかおまえ…」
「そう、どうせなら、エッチな言葉だけしか載ってない辞書を出せば、バカ売れするんじゃないか?」

↑と、まあヤキトリ屋でこんなやりとりを二人は交わし、これが「企画会議」なわけです。それで「誰に作らせる」となったとき、たまたま佐山さんが俺の顔を思い出したらしい。

「そうだ、そういや最近、竹熊とかいう若いのがウチに出入りしてるな。あいつ暇そうだから、どうか」
「こういうのは暇な奴じゃないと作れないからな。よし、後は佐山に任せるよ」

とかいって、俺のところに電話がかかってきましてね。もうイヤも応もないですよ。でも俺、本を一冊作るのは初めてだったし、それも辞書でしょう。ちょっと一人じゃ無理だと言ったら、佐山さんが友成さんのことを思い出したみたいで。

「んー、そういや友成、あいつ確か退院したんじゃないのか。どうせ仕事ないだろうから、あいつと組むのはどうだ。いいリハビリになるだろう」

irotan-8irotan-9←ひさうち氏に描いてもらった付録「ボディランゲージ講座」。原案は竹熊だが、ひさうち氏に「聾唖者も、猥談くらいするでしょうね」と一言言っただけ。ちなみにケイブン社版では、版元がクレームをおそれてページごとカットされている。

そんなわけで、その翌日から友成氏と神保町めぐってですね。段ボール2箱くらいのエロ小説を買ってきて、それに一冊ずつ赤線引いて、付箋貼ってという作業を3ヶ月、そこからカードに書き写すというですね、気の遠くなるような作業を経て、完成したのがこの本でした。正味、半年でできたのが奇跡です。いや単にアイウエオ順ならその半分の期間でできたと思いますが、類語辞典にしましたからね。これは俺の判断なんですが、はげしく後悔しました。当時俺が住んでいた江古田の6畳間の床がエロ単語カードでいっぱいになりましたからね。布団を敷く空間もない有様で、そんな分類作業が数ヶ月は続きましたよ。最後は若さが勝ったというか、なんとかやりとげたわけですが。

十年くらい前に、ふと『色単』のことを思い出して、ああ、あのときパソコンがあったらなあ、と思いましたけどね。全部、手作業でしたからね。まあパソコンはすでにあったけれども、PC-98が出るか出ないかの頃で、バカ高くてね。俺には一生、無縁の機械だと思っていましたね。

印税は、半年かけて40万くらいでしたか。当時としては、まあよくも悪くもないでしょうが、この間、バイトもろくにできませんでしたから、もう作業の途中から貧乏でしたね。その後も、仕事するたびに貧乏になるパターンを、俺は繰り返すことになります。20代はずっとそんな調子。

そんなわけで、若き日の俺の情熱が200%詰まった『色単』なんですが、どこかの版元さん、出してくれませんかね。最初の版元だった群雄社はとっくに倒産してますし、二度目に出してくれたのがケイブン社なんですけど、これも倒産してますので、現在出版権は完全消滅しているはずです。

『もえたん』『ホリタン』の隣にでも並んだら、最高なんですけどね。読者の皆さんも、この本が読みたいと思ったら、「復刊ドットコム」で依頼してくださいませんでしょうか。著者が自ら立てるのも、なんかアレなので。


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| コメント(29)

“【蔵出】幻の『色単』について” への29件のフィードバック

  1. 匿名 より:

    もちろん無修正版でおねがいしたいですナ(笑)。

  2. 匿名 より:

    女45歳です。この本、群雄社版で持っております。なつかしいなあ。持ってるだけで嬉しい本でした。

  3. 長谷邦夫 より:

    珍書ですね。はじめて知りました。
    佐山さん…、水声社『パロディ漫画大全』の
    貴兄との巻末対談のとき同席していたのが
    佐山さんでしたっけ?

  4. たけくま より:

    ↑そうそう、あのときの佐山さんです。

  5. 本田 より:

    「ううっ、うむう、うぐっ」
    たけくまさんのいつものパターンですが、
    まさに20年早すぎた名著ですね!∩( ・ω・)∩
    是非読みたいです。睦月影朗先生のおかず日記を文庫化したマドンナメイトあたりならもしかしたら。
    最近では、エロゲーが凄いことになっているようです。ちゆ12歳さんの調べたところによると
    http://tiyu.to/permalink.cgi?file=news/05_04_01

  6. 本田 より:

    >たけくまさんのいつものパターンですが
    もちろん「20年早すぎる」という文にかかっています。
    「ううっ、うむう、うぐっ」にかかっているわけではありません。∩( ・ω・)∩

  7. たけくま より:

    >本田さん
    睦月影朗さんがデビューしたのも、たしか群雄社だったはずです。当時、ハーレクィーンロマンスのパクリでシルエットロマンスという女性向けの恋愛小説シリーズがありました。それで、群雄社はこれに対抗して「シガレットロマンス」というエロ小説シリーズを始めたんですが、睦月さんはその中の一冊を執筆したのが最初だった…と何かで読んだ記憶があります。

  8. >本田氏
    たっちーは、“超空間”と並ぶ「ついていけません」なエロゲーなので、放っておいてください。

  9. koo より:

    ご存知かもしれませんが、現在、萌え・エロ系の単語集を一番出しているのはソフトマジックです。
    「えろたん」「らぶたん」「ゆりたん」「あぶたん」と色々出していますよ。
    http://www.softmagic.ne.jp/softmagic/shoseki/sweet/
    あとは基本ですが「フランス文化用語辞典」も一応。
    http://www.france.co.jp/bunko/yougo/yougo.html

  10. 本田 より:

    睦月影朗さんのデビュー作ですが、マドンナメイト文庫「追憶の真夜中日記」の年表によると…群雄社「聖泉伝説」ですね!

  11. 出版の際にはぜひ、カバー裏に件の「奇跡のマサイ語」をよろしくお願いします。(関係ありませんが)

  12. たけくま より:

    曜さんという人が、さっそく復刊リクエストを出してくださったようです。
    http://www.fukkan.com/vote.php3?no=28590
    ありがとう、曜さん。みなさんもふるって投票してください。しかしジャンルが「学習」って…。

  13. より:

    はじめまして。いつも楽しみに拝見してます。
    まだのようでしたので、リクエストしてきました。
    内容に不備がありましたらご指摘ください。
    復刊したら是非是非購入したいです。

  14. より:

    ジャンル、ちょうど良いのがなくて、「ある意味学習だろう」と学習にしたんですけど、他にどこかありますかね?(汗
    修正できますので、おっしゃってください~。

  15. たけくま より:

    いや学習でいいんじゃないですか(笑)。
    ひとつ付け加えれば、最終的な版元はケイブン社(頸文社)だったということですかね。付録の一部と装丁が違うだけで、中身は群雄社版の製版フィルムを流用した新装版です。
    どちらも倒産しているのがアレですが。

  16. とうりすがり より:

    いろんなケースがあるんでしょうが
    素朴な疑問です、こういう版元がつぶれちゃった
    書籍の原稿って債権として処分されちゃうんでしょうか?
    それとも作家さんがもってるんでしょうか?
    作家さんが○○さん一人って場合はそういう物かもしれませんが
    こういう企画ものの場合はどうなるんでしょう?
    ちなみに色単の原稿は竹熊さんが持ってるんですか?

  17. 匿名希望 より:

    2002年頃、マガジンハウスから「官能小説用語表現辞典」(永田守弘・編)というのが出版されておりますが、図解等は載っていないものの2300語ばかり表現が収録されています。

  18. たけくま より:

    >とうりすがりさん
    いや原稿はまったく保存していません。だから復刻は、本を精細スキャニングするしかないと思います。文字を打ち直すとなると大変なので。
    版元が潰れた場合ですが、原則として版元が所有しているのはその本の「出版権」であって、著作権ではありません。特別の契約がない限り、本の著作権は著者(故人の場合は、その家族)に独占的に帰属します。
    出版権は著作隣接権の一種です。これは著作権者の許諾のもとに「その本を出版してもいい」という権利のことです。
    よく版権という言葉を聞きますが、これは著作権と出版権などの隣接権をごっちゃにして使われることが多く、誤解を招きやすいといえます。正式な法律用語として「版権」という言葉はないはずです。
    さて最後に『色単』の出版権を有していたのはケイブン社でしたが、いつのまにか潰れてしまっていて、こちらには何の報告もありませんでした。ケイブン社が、仮に債権のような形で他者に出版権を譲渡していたとしても(そんなことができるのかは知りませんが)、著作権者である僕や友成さんが知らないところで交わされた契約は無効になるはずです。
    あと、これは確かに企画モノなんですが、中身を含めて作業はほぼすべて僕と友成氏でやりましたので、最初の群雄社のときも、ケイブン社のときも著者として契約書を交わしています。その書面は保存してますから、今回、どこかで出すにしてもこちらの一存で大丈夫だと考えています。
    問題は、製版フィルムの行方なんですよね。フィルムの所有権は、日本では版元に帰属するのが普通なので、会社が倒産した場合「資産」として差し押さえられることがあります。
    『色単』の製版フィルムも、群雄社が倒産したときに管財人が差し押さえていたようですが、それをケイブン社が買い取ったという経緯があります。だからケイブン社の管財人に問い合わせれば判明するかもしれませんが、もう散逸しているかも。
    ただいずれにせよ、著者の意向を無視して、フィルムの所有者が勝手に本を出すことはできません。

  19. とうりすがり より:

    なるほど
    活字のみの商品だった場合は
    いろんな方法があるんでしょうが
    こういうイラストが多用されそれが肝の商品
    の場合は大変なんでしょうね
    スキャニングするにしても修正がそれなりに必用でしょう
    ましてや漫画の場合は原稿の紛失は
    そうとう痛いんじゃないでしょうか刊行物からの
    スキャニングと言っても一筋縄では行かんでしょうし
    まぁ昔はそんな方法も無かったわけで
    そう思うと手塚御大の本当に貴重な作品なんかは
    そんな手法で復刊されてもいいのかもしれませんね
    物によっては、修正の人件費のみでも金が結構かかってしまうでしょうし
    最後になりましたが親切なレスありがとうございました

  20. とうりすがり より:

    追伸
    逆に言えば「原稿紛失」なんてケースでも
    債権として扱われた製版フィルムは残ってたなんて事も
    あるかもしれませんね、50年ぐらいたったら
    「ギャラリーフェイク」のネタになりそうな話だ(笑

  21. ASA より:

    安直ですが、電子出版というテはないかなあ、と思いました。
    たとえばe-novels http://www.so-net.ne.jp/e-novels/top.htmあたり、作家が直接読者に作品を届けたいという趣旨が印象的です。
    もちろんスキャニングやPDF化などの作業は軽減されないですが、たけくまさんならできる! なんて(^_^;)

  22. 沢辺均 より:

    ポット出版の沢辺といいます。
    友人が「こんな復刊、やったら?」ってメールで教えてくれて、たどり着きました。
    復刊に立候補させてもらいたいです。
    カバーを見て、見た記憶があるって気がするんですけど、本そのものは持ってないし、まして中身は全然しらないですけど。
    古本サイトで探してみたんですけど、探し出せません。
    でも、これは面白そうです。
    条件があえばぜひポット出版から出したいです。
    経過を読めば、著作権上の問題は、すくなくとも出版社との間にはないと思います、よね。
    ただ、ポット出版では、確実に売れる部数を(つまりいつも刷り部数を少なくしてるってことです)、初版の実売でもなんとか費用をまかなえる定価で(つまり、高いってことです)出しています。その上、印税を「刷り部数」ではなく「実売部数」で契約することが多いンです。
    検索してみたら、980円ですよね、最初の定価。
    これは安い。
    たぶん1万部前後くらいの設定なんじゃないかと……。
    そんなに刷る自信はないなー、と思いました、が。
    そんなこんなで条件があわない可能性もあり、ですよね。
    でも、考えてもらえませんか?

  23. たけくま より:

    ↑群雄社のときは1万5千部でした。実売はどのくらいだったかは知りません。ケイブン社も、同じくらい刷ったと思います。
    まあ80年代の話なんで、今とは事情が違っているとは思いますが。ご関心がおありであれば、竹熊までメールくださればと思います。メールは、僕の名前をクリックすれば送れます。よろしくお願いします。

  24. 沢辺均 より:

    ありがとうです。
    竹熊さんに直接メールしました。

  25. kaoru より:

    うおおお、これはたけくまさんとポット出版の出会いの瞬間なのか。すごい面白そう。
    ポットってちょっとヘンですよね(大変失礼)。商売っ気が無さ過ぎるというか。コストを踏まえてはいるが儲ける気は全然無いといいますか。
    いろいろハードルはあると思いますが、どっちもがんばって下さい!!

  26. 沢辺均 より:

    ↑ kaoruさん。
    商売っ気ばりばり、儲ける気も人並みよりちょっと上、と自負してるんですけど、伝わりませんか? 残念。
    来週、直接あって相談させてもらうことになりました。
    「がんばって」のエールに応えて……。

  27. 色単

    【蔵出】幻の『色単』について
    たけくまさんのblog。あー懐かしいなあ、色単。私も持っていましたよ。これってたけくまさんが作成されたとは全然知りませんでした。
    たぶん引っ越し

  28. [BOOK]

    おお、竹熊健太郎が『色単』について書いている!。しかも、気になるコメント群。ありがたみは薄れるけど、ホントに出たらぜひ欲しいなぁ。

  29. なえたん – 萎える英単語

    あのラジオライフの三才ブックスが熱い。「もえたん」、「電波男」と立て続けにヒットを飛ばしている。
    とりあえず本命の「電波男」の書評を後回しにして、「もえたん」の方から取りかかる。はっきり言おう。
    萌える英単語もえたん
    萎えたぜ orz….
    をたく….

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