たけくまメモMANIAX

« | トップページ | »

2006年8月30日

ネット書店とリアル書店

このエントリーをはてなブックマークに追加
Share on Facebook

えーと、本日が『サルまん』の正式発売日であります。なんだかここしばらく、秋葉原での「IKKI」スク水表紙完売にはじまり、『サルまん』の当ブログからの予約注文が昨日の時点で530冊を超えるなど、派手な話が続きましたのでうっかりしてましたが、

リアル書店ではこれから

ですのでよろしくお願いしたいと思います。

「裏日本工業新聞」のタニグチリウイチさんの8月29日付け日記によると、彼は『サルまん』が売り切れるといけないと思い、昨日の朝一番に池袋ジュンク堂に駆け込んだら意外にすいていてサイン会の整理券番号が8番だったと、なんだ全然買えるではないか、みたいなことを書かれていました。

http://www.asahi-net.or.jp/~WF9R-TNGC/nikko.html

しかし、今日が正式発売日ですので、現時点で売り切れたらそのほうが異常です。

俺を含めてけっこう勘違いした人がいると思いますが、もともと今回の『サルまん』、本来なら売れるほうがおかしい状況でスタートしていたわけです。すなわち、

(1)中身が15年前の旧作
(2)マンガとしては定価が高い(上下で税込み3360円)
(3)判型が書店に嫌われるA5
(4)ブログ以外の宣伝をまったくしていない

普通に考えてこれは四重苦というべきで、出版常識としては売れるわけがないのです。だから俺を含め、関係者全員ここまで注目を集めるとは思っていませんでした。というか、

むしろネットで売れすぎ

というべきで、リアル書店的には普通、ないしは売れてる方、のようです。昨日、担当編集が小学館の営業と話したところ、「定価600円のコミックスに換算すれば利益率的には4万部程度の動き」だそうで、これは完全に想定外だと言われました(もちろんこっちはそんなに刷っていません)。かなり無理をいって再刊してもらったので、版元に対しては面目が立った格好です。これも皆さんのおかげであります。最終的には今週来週のリアル書店の動きで成績が決まってくると思いますが、もしかしてもしかしたら増刷も夢ではない状況です。ありがとうございました。

ところで個人的な思いはさておき、客観的に今回の状況を考えてみますと、販売の現場的にはかなりユニークな現象が起きているといえます。つまり、明らかにオンラインとオフラインの逆転現象が起きているわけです。

現時点での読者の声を見ていると、『サルまん』の購買層は

(1)年齢的には30代~40代
(2)旧版の購入者とかなり重なる

ことがわかります。これは小学館営業の見立てと同じで、ゆえに部数を絞ったかたちで高い定価をつけても元がとれる、と会社は踏んだわけでしょう。しかし俺としては10代、20代にも読んでいただきたいので、なんとかもっと安くならないかと掛け合いましたが、販売権は向こうにあるので、そこはもう仕方がありませんでした。

しかし今回、ネットでの動きは彼らの想定外だったはずです。理由としては、まず去年の秋から今回の復刊に対する布石というか、個人的に「たけくまメモ」で大々的なパブリシティ企画を打っていたことがあげられます。これは「たけくまメモ」のアクセス向上にともなって個人的には手応えを感じていました。が、俺が勝手にやっていただけなので版元的な認識はほとんどなかったはずです。出版社は、特に大手になるほどネットを軽く考える傾向がまだありますから。

次に定価が高くともそれなりに動いたことは、購買者の年齢層の高さから説明できるわけですが、

判型が(売れない)A5にも関わらずネットでは売れた

ということは、これはもう、注文すれば家まで届けてくれるネット販売だから、というのが最大の理由ではないかと思われます。逆にいうと、リアル書店の動きがネットに比較して鈍い理由もある程度これで説明できるわけです。

この判型問題については、昨年からかなり悩んでいたことは事実です。しかし中身的には、異常に細かい字が詰まっている作品ゆえ、A5以上がベストな作品なのです。このへんの葛藤は、以前のエントリのこのへんを参照してください。

http://memo.takekuma.jp/blog/2005/12/post_3f9d.html
http://memo.takekuma.jp/blog/2005/12/post_5c6e.html
http://memo.takekuma.jp/blog/2005/12/post_4b68.html

リアル書店がA5以上の大判コミックを嫌う理由は、単純に「店に置く場所がない」ということに尽きます。これは、マンガ全体の売上げ低下を出版点数でおぎなおうとする、業界の事情でこうなった部分があるわけです。昔はA5のマンガで売れる物もたくさんありましたが、現在新書~B6サイズが主流となっているのは多くの本を効率よく置こうとする版元・書店双方の意図が大きいわけです。A5の置く場所がなければ、当然売れようがない。しかしこれは、リアル店舗の都合であって、

書店から家まで持ち帰る必要がなければ、判型は関係ない

ということが今回、はからずも証明されたのではないでしょうか。まあ、それとは別に、家での置き場所の問題は発生しますけれども、『サルまん』は全30巻も続く作品ではありませんので、2巻くらいなら許容範囲だったのではないかと思うわけです。

あと、この手のマニアックな単行本はどうしても都会の大書店が配本の中心になり、地方の人には現物が見つからないことさえままあります。しかしオンライン販売ならそうした制約はありません。これも今回、有利に働いたのでしょう。

ということで、

ネットの時代にあっては、純粋に本の中身で勝負できる

というのがとりあえずの結論だったりします。本とは、本来内容で売れるべきなのですが、往々にして「宣伝」「価格」「判型」のような外的要因で決まってしまうことが多いのです。これがネット時代にはある程度カバーできるということが、今回の個人的経験を通じてちょっと見えてきました。

そもそも、すべての本が100万部売れる必要はないわけです。内容と価格と購読層が見合っているなら、数千部から1万部以内でも十分に「成功」だと言えるのです。しかし版元も書店も「商売」ですから、どうしても数万部以上を売る本だけに目がいきがちです。が、本の価値とは必ずしも「売れる本」だけにあるわけではありません。

今回、『サルまん』のネットの動きで露わになったものは、梅田望夫氏の「ウェブ進化論」で有名になった「ロングテール理論」の現実的な現れであるともいえます。「リアル書店で売れない本」が「多数積み重なってオンライン販売の売れ行きの多くを占める」という、あれです。

もっとも今回は、予約段階にも関わらず、アマゾンのベストセラーリストで最高9位までいきましたので、「塵も積もれば山」という意味でのロングテールではないかもしれませんが、出版界全体として見れば、『サルまん』は十分ロングテールでありましょう。

ただ今回、普通のロングテールと違う点があるとすれば、著者自らブログで宣伝をしつこくしたことと、たまたま「スク水表紙」をアップしたらそれが

ネット中にリンクされた

ということもあって、結果としてもの凄い宣伝になったことでしょう。

宣伝にまったくお金がかからない

のが、ネット最大の利点だと俺は思います。ただ信じていただきたいのですが、あれはほんのシャレでやっただけで、俺も相原くんも、宣伝するつもりはまったくありませんでした(むしろ「あざとい」と顰蹙を買うかもしれないと覚悟していた)。しかし、それもこれも結果論でして、宣伝として「成功」したことを認めるにやぶさかではありません。

ネットで本を売るさいの欠点は「立ち読みができない」ことにあります。まして10年前に復刊がでたのみで、以後長らく品切れ状態が続いた旧作ですから、この部分は圧倒的に不利でしたが、そこを「個人的なネット宣伝」でここまでカバーできるとは、正直驚きでした。しかしこういうこともありますので、出版関係者の今後の参考になれば幸いです。

とりとめのない文章になってしまいましたが、現時点で俺が思ったことをメモランダムに書いてみました。あとはリアル書店でも売れてもらえれば万々歳であります。しばらくの間、

リアル書店にはいっぱい置いてあります

ので、ご購入がまだの人はなにとぞよろしくお願いします。

※ということを書いて、一寝入りしてさっきアマゾンを見たら取り扱いを再開した模様。近所の本屋さんになかったら、こちらもよろしく!


たけくまメモMANIAX

| コメント(30)

“ネット書店とリアル書店” への30件のフィードバック

  1. apg より:

    めでたい話ですね。
    おめでとうございます。
    これでバンコク生活の足がかりがつかめますね(笑)
    とかなんとか、結局たけくま先生は
    ずっと日本にいるようなきがしますけど。
    >10代、20代にも読んで
    これはもう買った30代、40代の
    啓蒙活動に期待するしかないですね。
    >純粋に本の中身で勝負できる
    だといいんですが、
    最近よく言われている
    「口コミを装った宣伝活動」みたいなのも
    出てきてますから、
    これからまた真贋を見極めるのが
    難しくなってくるんじゃないでしょうか。

  2. Aa より:

    旧作でも作者は神経過敏になってしまうんだなー、と今回のエントリを読んで思いました。

  3. ハム より:

    >旧作でも作者は神経過敏になってしまうんだなー、
    ソレが普通ですよ。というより、それくらい自分の作品に気を掛けられる人こそが成功できるのだと私は思います。

  4. 通公認 より:

    本が売れる要素には「タイトル」もありますね。
    『リアル鬼ごっこ』とか。

  5. FSR402 より:

    >>『リアル鬼ごっこ』とか。
    アレは酷いものだった・・・
    新書とかはほとんどタイトルだけで売れてるような気がしますなあ。
    そういえば書店で『サルでも描ける漫画教室』ありますか?
    と聞いたらタイトルが変わっていたため古いほうを出されてひっくり返るかと思いました。

  6. たけくま より:

    ↑それいつ頃の話ですか。古い方が出てきたのは。

  7. りきち より:

    はじめまして。
    昨日、ジュンク堂で購入してきました!
    サイン会行きますので、よろしくお願いします。
    16時ぐらいに行ったのですが整理番号は23番でした。
    購買層を考えると加齢臭のキツそうなサイン会になりそうで、楽しみなような覚悟がいるような。
    では土曜日に。

  8. たけくま より:

    ジュンク堂も、独自にいろいろ考えているみたいですよ。

  9. hujikojp より:

    今USにいて、9月半ばに日本に帰る予定なんですが、そのころまで店頭に在庫ありますかねえ…

  10. [マンガ] 作者のブログのamazonアフィリエイトから530冊の注文

    ネット書店とリアル書店 : たけくまメモ 物凄い、これまでの常識から考えるとあり得ないことが起こっていると実感させられます。 amazon:『サルまん 21世紀愛蔵版 上巻』(相原コージ,竹熊健太郎/小学館) amazon:『サルまん 21世紀愛蔵版 下巻』(相原コージ,竹熊健太郎/…

  11. YAN より:

    会社帰りにジュンク堂にてセットで購入。
    整理番号は40番台半ばでした。
    まだまにあいますよ>希望者

  12. たけくま より:

    ↑↑いや、あると思いますよ。リアル書店で品切れるようなら、さすがに増刷がかかるでしょうし。

  13. たけくま より:

    >YANさん
    あ、そうでしたか。当日は心をこめてサインしますので、ぜともお越し下さるようお願いします。

  14. 丈鯛偏太郎 より:

    市内の本屋を三軒回ったけど「IKKI」はありませ
    んでした。定期刊行物が一日遅れになる事がある
    様な田舎なので、売り切れたのではなく最初から
    入荷してないんだと思います。
    「サルまん」の方は問題なく買えそうですね。ま
    だ本屋に行ってませんが。比較的大きめの判型で
    よかったです。漫画が文庫本サイズだと面白さが
    半減する気がします。
    書かない方がいいとは思いつつ・・・・
    竹熊さん、印税が入ったら滞納してる国民年金の
    保険料払って下さいね。

  15. ( 'ω`) より:

    まさか今日売り切れてるとは…
    大きめの書店2店舗回ったのですが
    すでにサルまん完売してました。
    しばし放浪の旅に出ます。

  16. ( 'ω`) より:

    まさか今日売り切れてるとは…
    大きめの書店2店舗回ったのですが
    すでにサルまん完売してました。
    しばし放浪の旅に出ます。

  17. FSR402 より:

    ↑それいつ頃の話ですか。古い方が出てきたのは。
    昨日の話です。
    小さい書店で、店員さんは最初はタイトルを聞いても『?』な感じだったのですが、『少々お待ちください』とのことで5分ほど待ったら持ってきてくれました。2巻でした。

  18. FSR402 より:

    あ、サルまんは今日21世紀愛蔵版を買えました。新井英樹の『真説 ザ・ワールド・イズ・マイン』といい最近の復刊物は素敵過ぎて嬉しい悲鳴です。

  19. a.sue より:

    昨日、品川のくまざわ書店で上下巻3冊ずつおいてあるのを見たのですが、金券屋で買った図書カードが枯渇してて見送ったら、今日はもうありませんでした。
    帰りに丸の内丸善で面出し平積みの山から無事ゲットしました。
    浜松町の談に在庫がなかったときにはいささかあせりました。

  20. 実売率100%

    実売率100%! ただし、配本は各1冊でした。。。 配本少ねぇって・・・。 「サルまん 21世紀愛蔵版 上巻」、「下巻」。 竹熊さんはサイズのことを気にしてらっしゃいますが、私はA5が売れないとは思ってないです。 集英社の完全版(むかしの小学館の愛蔵版よりも大き…..

  21. 今村 より:

    関西の片田舎です。
    本日比較的大きめの書店でサル漫を探したのですが発見できませんでした。二軒目は漫画に強い(というか腐女子に強い)雰囲気のところなのにないのがおかしいと思えて、「ははん。A5だからコミック新刊置き場にないんだなー、文芸書かな? タレントコーナーかな? でも探すの面倒だから」と尋ねたところ、ネット検索をしたはずの店員said「四巻が出るんですか? 違う? え? だって、今日発売なんですよね?」と対応されたので、新装版が出るからチェキしといてくださいと伝えて、私はAMAZONで買います。発売日を間違えたのかと思いました。漫画代以上の電車賃をかけて漫画を買いに行かなくても済むなんて、Amazonはすばらしいです。

  22. おてんちゃん3代目:注目の言葉!

    おでん缶のおてんちゃん、意外に可愛いですね(笑)

  23. メソ より:

    26才男ですが、「サルまん」は自分が10代前半のころでも「伝説のマンガ」ということで名前だけは知っていました。小中高生向けの雑誌などでも、よく「サルまん」の名前は出ていた記憶があります。まぁ、かなりのマンガ好きだったから覚えている、というのもありますが……ファミ通でも有名でしたし。
    ただ、自分のたけくま先生のイメージはずっとファミ通のままだったので、スク水で初めてお姿を拝見していろいろと驚きましたが……
    ということで、ぜひ書店まで買いに行こうかと思います。応援しております。

  24. blog珍品堂 より:

    いよいよ発売 −サルまん21世紀愛蔵版−

     いよいよ発売になりましたね、「サルまん21世紀愛蔵版」。たけくまメモでの、著者自らによるプロモーションの効果もあって、売れ行きも上々のようです。
     「サルまん」と言えば、学生時代の私に人生を踏み外させた奇書中の奇書。第一巻初版は1990年、まさにバブルの……

  25. 架空の線上 より:

    [書店業務]こちらリアル書店

    アーアー、こちらリアル書店、こちらリアル書店。どうやら取次は密林に重点的に物資を投入している模様。我々に対する補給は非常に厳しい状況にある。読書子の応援を期待する。 というわけで、話題の『サルまん』も米澤穂信『ボトルネック』も配本ゼロでした。両方とも小生…

  26. 今村 より:

    あ…… さるまんで微妙な顔をされたので
    「サルでも描ける漫画教室」と旧タイトルを
    正式名称のつもりで言ってしまった為、
    四巻発売なんて事態になったんですねOTZ

  27. [ネット]ネット書店とリアル書店(from ゴルゴ31)

     ふ〜む……ネット書店のメリットが分かる気がする。リアル書店では弊害になる要素が詰まっていても、それでもリアル書店自体の弊害をネット書店がカバー出来るからこそ、今までに無い形で本が売れるという事を証明したんだから凄いな。  でも、それをこうやって自分の体…

  28. Not Available より:

    サルまんの店頭認知状況

    サルまん 21世紀愛蔵版 上巻posted with amazlet on 06.09.01相原 コージ 竹熊 健太郎 小学館 (2006/08/28)Amazon.co.jp で詳細を見る復刊された「サルでも描けるまんが教室」を買うべく、銀座の某有名書店(マニア筋には握手会でおなじみ)の2階コミック売り場へと赴いた。 …..

  29. 魔夜中ノ鷲 より:

    「サルでも描けるまんが教室」 相原 コージ, 竹熊 健太郎

     「サルでも描けるまんが教室」の21世紀新装版。
     今読んでも面白い内容ですが、進化する現代漫画に対応するため、「サルでも描けるまんが教室21」が追加。今をときめく萌えに二人が挑んでいます。
     相原コージによる萌えキャラがしっかり今時のタッチなのは一見の価値あり! 「たけくまメモ」にて読者から添削していただいた成果だそうです。添削を逆に読み取ることで、古いタッチとはどういうものか理解することもできます。
     本来漫画の範疇に入らないライトノベ…

  30. [本]相原コージ、竹熊健太郎 / サルまん 21世紀愛蔵版 (上巻、小学館)

     ちんぴょろすぽ〜んなギャグ漫画です。すばらしい。

« | トップページ | »