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2007年2月23日

コレクター考(3)俺が出会ったコレクター達(1)

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前回やや特殊事例をあげてしまったので、今回はまともな、というか本格的なコレクターを紹介するとしよう。

 俺の世代でコレクションというと、やはりマンガ・アニメ・特撮といったオタク系が主流となる。広い意味でのサブカルチャー領域で言えば、たとえばビートルズやストーンズなどのレコードコレクターが、上の団塊世代にはわんさといた。マンガも、貸本収集などになるとやはり団塊世代が多い。

50年代後半から60年代前半生まれの、オタク第一世代が本格的にコレクション道に参入するのは70~80年代以降であるから、オタク系以外のサブカル・アイテムはとうに先人に漁り尽くされていて、入るスキマがなかったといえる。まあビートルズなどは団塊世代に比べれば思い入れが希薄だったこともあるが。ゆえに、俺たちが物心ついてから最初に熱中したマンガ・アニメ・特撮がフェティッシュの対象となったわけだ。コレクションの流行が昔ながらの書画骨董の世界から、ここ40年でサブカル=オタク領域へとシフトしたのは、団塊の世代に始まり、オタク第一世代にいたる嗜好の変遷とシンクロしている。

いきおい、俺が出会ったマニアやコレクターもオタク第一世代が中心となる。それも「これはスゲエ!」と唸るような人は、なぜか「特撮者(とくさつもの)」が多かった。とにかく特撮・怪獣映画マニアには、年季の入ったマンガ者やアニメ者ものけ反るほど「濃い」人が多い。それはここ30年以上変わらないようである。なぜかはいろいろな考え方があるが、マンガ=アニメには女性ファンも多く、特撮となるとガクッと女っ気が希薄になることも関係しているかもしれない。特撮マニアは、基本的に「漢(おとこ)の世界」なのだ。

女と無縁であるがゆえに、特撮者はデート・プレゼントなどに無駄な出費をすることもなく、安心してコレクションに邁進できるのだろう。まあ近年では、変身ヒーローにイケメン男優をキャスティングすることが多くなって、若奥様のファンが増えているそうだが。しかし若奥様はイケメンに興味があっても、イケメンが搭乗する変形合体メカや怪人にはおそらく関心を抱かないであろう。

俺が過去に出会った特撮者のなかでも、ひとり「別格」だったのがZ氏である。一応Z氏と仮名にしておくが、これから書く内容を読めば“その筋”の人なら誰だかわかってしまうだろう。まあいいや。どういう人かといえば、小学校時代に「怪獣博士」として幾多のテレビに出演し、中学卒業と同時に某有名特撮プロダクションに正社員として「入社」してしまったというから半端ではない。

Z氏が入社したのは70年代初頭で、そこから彼の本当のコレクション道が始まったといえる。そのまま進学して学生を続けながら業界にコネを作り、グッズをチョコチョコ譲ってもらうというよくあるマニアの生き方ではなく。中学を出ていきなり「インサイダー」となってしまったのは彼くらいだろう(彼は30過ぎまで社員を務め、現在はフリーの特撮研究家である)。筋金入りなのだ。

Z氏とは80年代後半に、ある本の仕事を通じて知り合った。「日本屈指の特撮マニア」として有名で、怪獣映画の本をつくるなら、まずZ氏の門を叩け」とまで言われていたのだ。特に東宝特撮や円谷関係では、Z氏しか所有していないスチル写真類が膨大にあるからである。彼しか持っていないということは、当然その作品を作ったスタッフや映画会社にも「ない」ということだ。Z氏の家には、スチル以外にも貴重なコレクションが多くあると聞いた。

ちなみに、そういったマニア向け単行本やムックは、いかに「珍しい写真」を収録できるかが売り上げを左右する決め手となる。それが他の本には載っていない激レア・ショットだったりすれば、マニアなら随喜の涙を流し、その写真だけのために千数百円の単行本を購入するだろう。もちろん保存用・鑑賞用・非常用と最低三冊は。

そうした写真の著作権はもちろん映画会社やTV局にあるわけだが、「所有権」はZ氏にある。ここがミソだ。従ってその写真を本に載せる限りは、制作会社への著作権料とは別に、Z氏にも写真レンタル代を支払わねばならないわけだ。あるいはZ氏を著者に起用して、原稿料や印税を支払うことでレンタル料をまけてもらう。とにかく彼くらいの「特A級コレクション」であればこそ、そういう「ビジネス」も可能となるわけである。

Z氏のコレクションは、「量」としては実はそれほどでもなかったのだが、「質」にかけては恐るべきものだった。「価値」を知る者であればあるほど、驚愕するほかはない。極端に言えば、そこには「一点モノの本物」しかなかった。ここで「本物」というのは、実際の撮影に使用した小道具や役者の衣装などの実物という意味だ(別に生きたゴジラを飼っているわけではない)。

だからたとえば、多くの怪獣マニアにとっての基本コレクターズ・アイテムである60~70年代のソフトビニール人形などには、Z氏は見向きもしなかった。しょせんそれは玩具であって、「本物」ではないからだ。なにかしら撮影に関わった本物、ないしはいわく因縁のある一点モノの激レアアイテムこそが、Z氏の求めてやまぬ対象であった。

はじめて会ったZ氏は、寡黙でおとなしく、年齢も俺より数歳上なくらいで、想像していたよりずっと若かった。それから都内にあった彼のアパートに行ったのだが、普通の2DKの木造アパートで意外と狭く、失礼ながらこれが日本有数の特撮コレクターの住まいとはにわかに思えなかった。蔵か倉庫にでも住んでいるイメージがあったのである。

ドアを開けると、なるほどさすがにマニアの部屋らしく、壁中に本棚があり、怪獣映画のパンフレットや台本がビッシリと並んでいる。特に目を惹いたのはキッチンのほぼ半分を占領していたスチル写真の山で、一枚一枚が丁寧にビニールパックされて腰の高さまで積まれていた。彼の「商売道具」だ。あまりにも大量なので、なまじアルバムで整理したりすると部屋に収納しきれないのだろう。彼は写真の山を指さして、言った。

「これで、2億円ですかね…」

あまりに平然と言うので、俺は、しばらくZ氏の言葉の意味を図りかねていた。そして次の瞬間、それが写真類の「資産価値」を言っているのだと気がつき、戦慄した。(つづく)

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| コメント(9)

“コレクター考(3)俺が出会ったコレクター達(1)” への9件のフィードバック

  1. より:

    2億円か……
    同人誌で脱税して稼ぐよりは浪漫のある使い方ですね。
    http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20070221i513.htm
    でも、2億円か……

  2. new より:

    検索したらどなたか分かってしまいました。ネット時代は怖い……。

  3. めたろう より:

    前回の方とまた違って、しんしんと迫りくるものがありますね、、、。続き楽しみです。

  4. ぬるはち より:

    たぶんZ氏の本は買った事があると思います。

  5. 石川誠壱 より:

    もう20年以上も前に、
    「月刊投稿写真」のイラストレーターが
    『大映テレビ』の人の対談記事に載せるべき似顔絵イラストに
    間違えて「Z氏」の似顔絵を描いてしまったことがあるのを思い出しました。
    そのスジでは、あの姓の研究家・評論家といえば、
    まず大昔から「Z氏」が第一人者だった、ということですね。
    その粗忽なイラストレーターも、
    今では吾妻ひでおを土下座させる小娘になったわけですから、
    歳月とは恐ろしいものです。

  6. 忍天堂 より:

    いわゆるコレクターが高じてクリエイターになってしまったという人ですね。
    次が楽しみです(笑)
    しかし力の入ったエントリで、もう完全復活じゃないですかね?

  7. トロ~ロ より:

    毎日リハビリ訓練で肉体を酷使しつつ「くそっ、本当はオレは頭脳労働者なんだぞ、手足が少々動かないぐらいなんだ、くそぉ」とばかりに沸々と不満が沸き起こり、元気だった日々の記憶がまざまざと思い出されて、この力のこもったエントリを生じさせているのではないかと。

  8. ミハエル より:

    全然話の内容と関係ないですが、
    Z氏て黒田硫黄の漫画みたいでかっこいいですね。
    まさに人にあらざる天狗の所業。

  9. すんごい特撮怪獣コレクターさんの記事。

    好きでよく読ませてもらっている「たけくまメモ」さんで、今特撮関係のすごい面白い記事が連載されています。
    コレクター考(3)俺が出会ったコレクター達(1)
    いやはや轟天じゃな…

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