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2007年2月24日

コレクター考(4)俺が出会ったコレクター達(二)

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Z氏が自室のスチルの山を「2億円」と算定した基準は何か。おそらくは出版社が制作会社から写真を借りる際の著作権使用料を基準として計算したのだろう。80年代末で東宝特撮の写真版権使用料は一点につき2万円が相場であった(今は知らないが、おととしある仕事でロマンポルノのスチルを日活本社から借りたら、ちょうど1点2万円だった)。

Z氏がその金額で価値を査定したのだとしたら、目の前のスチルの山はちょうど1万枚あったということになる。マニア間の売買金額では一点ごとに査定するので、まったく違ってくる。中には数万以上のものもあるだろうが、多くは数百円といったところだ。Z氏が全部を2億円かけて集めたわけではあるまい。まあ、初対面の俺に対してややハッタリをきかせたというところか。それにしても、あのスチルの山を眺めただけでも、明らかに通常のマニアを超えていたが。

ところでそのとき、俺は写真の中に、初代ウルトラマンの珍しい撮影現場でのスナップ写真があるのを見つけた。俺も初代には熱中した世代なので、雑誌の特集などで大抵の写真は見てきたつもりだったが、その写真ばかりは構図といい、撮られた状況といい、初めて見るものであった。

「わあ、これは珍しい写真ですねえ。たぶんどこにも載ったことがないのでは。今度の本にぜひ載せましょうよ」と俺が言うと、Z氏は言下に「いや、それは第5次ウルトラブームが来るまでとっておくんだ」と言い放ったのだった。

第5次? はて? 当時は80年代の後半で、ウルトラ物の新作は放送されていなかった。1966年放映の『ウルトラマン』から67年の『ウルトラセブン』までを第1次ブームとすると、69年の『帰ってきたウルトラマン』から70年代初頭にかけての『ウルトラマンレオ』に至るシリーズが第2次、80年の『ウルトラマン80』が第3次で、それから90年代以降の「平成ウルトラマン」と呼ばれる復興期までウルトラシリーズは放送されていなかった。80年代後半は、ウルトラ冬の時代だったのだ。

「平成ウルトラ」を第4次とするなら、Z氏の言う「第5次ウルトラブーム」などというものは、実はいまだに訪れてない。ましてや第3次ブームが終了して「冬の時代」まっただ中だったあの時期、21世紀には訪れるかもしれない「第5次」に発表する激レア写真を、彼は数十年も前から秘蔵していることになる。いったいこの人は何なのだ。これは「次元」が違うと思った。

しかし俺は、Z氏のコレクションの一端を、まだ、ほんの一瞬かいま見たに過ぎなかったのだ。フスマの向こうにはもうひとつ部屋があり、そこで俺は「とんでもないもの」を目撃することになるのである。このときは、奥の間を見ずに撤退したと思う。単行本の打ち合わせがメインだったこともあるが、実はZ氏には躁鬱傾向があって、この日は鬱期だったのだ。寡黙に見えたのはそのせいもあった。

その数週間後、俺はもう一度Z氏宅を訪問することになるのだが、今度は躁に転じていた彼の、別人のように明るい姿と遭遇することになった。軽くハイになっていた氏は、喜んで奥の間を見せてくれたのだが……。

奥の部屋は寝室兼コレクタールームとなっており、立派なガラス戸の本棚もあって香山滋が昭和29年に出した『ゴジラ』のノベライズ本などがあったが、こんなのは小手調べといった感じで、なにやら部屋のそこかしこに置かれてある古びたボール箱が気になった。

しかしもっと気になったのは、押し入れのフスマが少し開いていて、なにやら見覚えのあるコスチュームがつり下がっていたことだ。

「おや? あそこにチラリと見えるのは、もしかして……」

それは67年に放映された『ウルトラセブン』に登場するウルトラ警備隊の制服だった。
「ああ、あれはアンヌ隊員の制服。ひし美ゆり子が着ていたやつですよ」
「本物……ですよね?」
「もちろんです」

アンヌ隊員といえば、シリーズでもっとも人気のある『ウルトラセブン』の紅一点ヒロインであり、40年後の今もその人気は衰えていない。演じた女優はいいオバサンになっているのだが、今もマニアの集会には自らアンヌとして参加しているという。その彼女が撮影当時来ていた本物の衣装となると、現在市場に出たら、いくらの値段がつくものか見当もつかない。

ちなみにアンヌの制服は、オタク映画監督の河崎実氏も所有していると聞いたことがある。Z氏や河崎氏のような鑑識眼のある超マニアが偽物をつかむことは考えにくいので、どちらも本物なのだろう。撮影が1年にも及ぶシリーズ番組で、主役級レギュラーの衣装を1着しか用意しないということはありえない。まず数着は制作したはずだ。してみると、あと何人かは「俺もアンヌの制服を持っている!」という奴がいてもおかしくはない。

そのことはZ氏もわかっているはずで、アンヌの制服程度では、自慢のそぶりすら見せなかった。氏の瞳が輝いたのはその後だ。

「それよりタケクマくんにぜひ見せたいモノがあるんだよ。これ、なんだと思う?」(つづく)

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| コメント(20)

“コレクター考(4)俺が出会ったコレクター達(二)” への20件のフィードバック

  1. エイジロー より:

    な、なんだろう?!
    円谷栄二個人のなにかだろうか、
    「初代」でハヤタがうっかりかざしたカレースプーンかな?(違うな)
    興味津々の題材と、なにか堰を切ったような怒涛の執筆で、
    とっても面白く拝見しています。
    なにか圧倒される描写に、たけくまさんの気合いを感じます。
    しかしこうスゴイと喜びとともに、ちょっと心配しちゃいます。
    いきなりアクセル全開でレッドゾーン回転しないようにお願いします。

  2. Aa より:

    次回へ続くのひっぱりが
    巧いといえば巧いけど何だかわざとらしい。

  3. 湯宿 より:


    いつまでも反抗期なのね坊や。

  4. より:

    「円谷栄二本人」に一票

  5. 忍天堂 より:

    >「第5次ウルトラブーム」
    天才というのは生まれた時から、死ぬまでの人生設計が出来てるのかも知れません。
    去年はモーツァルト生誕250周年という事でモーツァルト・ブームでしたが、その物の価値が永久不変であるならコレクターの死後も周期的にブームは続く筈です。
    第6次、第7次とブームはあると思うが自分の生存中は第5次が限界だろうという意味での発言でしょうかね?
    >「おや? あそこにチラリと見えるのは、もしかして……」
    ここで次に引っ張ると思ったのですが、こちらは前振りでしたか、
    流石プロの物書きだけあって、次への引っ張り方が巧いですね。

  6. 長谷邦夫 より:

    そういえば25日、
    池田憲章講演会『故郷は地球~脚本家
    佐々木守がめざしたもの』が、開催。
    午後2時30分
    徳島県・北島町創世ホールにて。
    入場無料!
    町立図書館館長・小西昌幸さん
    入魂のプロデュユースである。
    小西さんの蔵書も一度拝見してみたい!

  7. 門弟廃村 より:

    「円谷英二の着ぐるみ」だな。

  8. ff より:

    長谷 さん
    Aa(久美薫)をなんとかしてくださいよ。

  9. エイジロー より:

    ごめんなさい変換ミスで、
    ×栄二
    ○英二
    でした。お恥ずかしい。尊敬してるのに・・

  10. テクノ より:

    うーむ、ff氏はきっとAaに惚れたのだ

  11. にゃー より:

    >ffさん
    まあまあ。
    パクチーみたいなもんだと思って。

  12. yosi より:

    アンヌ隊員……すらりとしたハーフの女性でしたが、現在もマニアの集会に出席されるんですか!
    60過ぎの彼女を見たいような見たくないような……。

  13. ポン一 より:

    まだ50代ですよ。
    あと数ヶ月ですけど…。

  14. ポンポコ より:

    竹熊さん、すっかり本調子っすね。
    うれしいっす!

  15. HAMADA13 より:

    >50代のアンヌ隊員の姿
    こちらで見ることができますよ。
        ↓
    http://www.yuriko777.com/

  16. 長谷邦夫 より:

    A遠に変わらないaきらめる~トカ…。
    コレクターのバベルの塔に登る
    竹熊さんのパワー!
    快調なのが何より嬉しい!

  17. 機嫌 より:

    レコード会社から引き取った、
    円谷優子の売れ残り在庫CDが山のように積んであったとか。
    時代が違うか…。

  18. yosi より:

    HAMADA13 さんありがとうございました!
    想像よりはるかに美しさを保っていらして……。いい人生を送ってこられたのでしょう。
    1,157,484番目のお客様になりました。

  19. ジョナサン上田 より:

    トラックバックが凄いことになっていますね。

  20. yosi より:

    ↑そうですね、ワンクリック詐欺に危うく引っかかりそうになりましたよ。

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