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2007年2月25日

コレクター考(5)俺が出会ったコレクター達(三)

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と言って彼が取り出したのは、経文折りにたたまれた厚手の和紙だった。相当の年月が経っているのか、全体が茶色く黄ばんでいる。

「なんでしょう? 崩した筆文字でビッシリ書かれていますね。お経かなんかですか?」
「いやお経ではなく、神道の祝詞(のりと)。昭和29年の『ゴジラ』第一作で、ゴジラが最初に出現した大戸島の神社の神主が、伝説の海神(ゴジラ)の怒りを鎮めるために、映画で読み上げた実物ですよ。撮影用の小道具だね」
「…………」

もしかして内容がディープすぎて、ピンとこない読者もいるかもしれない。そういう人は、どうかレンタルででも『ゴジラ』第一作を見直して欲しい。ここに書いた通りのシーンがあるはずである。祝詞も、紙の一部だが映画に映っている。まさかこんなにしっかり書かれてあったとは知らなかったが。ともかく、Z氏のコレクションはすべてがこんな調子なのだ。

なかにはこんな貴重なものもあった。氏が「こういうものもあるけど」と部屋の隅で布にくるまれていた中身を見て、俺は再び絶句した。

「ああーーーッ! こ、これはオキシジェン・デストロイヤーではありませんか!」
「レプリカではないよ! 撮影に使った本物だよ!」
「こんなものまでお持ちとは……!」
「こればかりは1億積まれても売る気はない!」

オキシジェン・デストロイヤーとは、やはり『ゴジラ』第一作で、平田昭彦演じるマッド・サイエンティストがゴジラを倒すために使用した最終兵器だ。アルミか真鍮で作られた、全長70センチほどのカプセル状のもので、映画では「水中の酸素を一瞬で破壊する、原爆にも匹敵する超兵器」という設定だった。

その「実物」が今、目の前にある。どこをどうやったらこんなものが入手できるのか。とにかく、この目で見たことは確かである。

さらにはこんなものも。部屋にあった古い靴箱なのだが、Z氏が「開けてみて」というので、何気なく蓋をはずしたのだが、そこには紙に包まれた2体の人形が入っていた。一体15~20センチくらいで、全体が紙粘土で作られていた。

「『モスラ』でラストシーンに使われた、双子の小美人(ザ・ピーナッツ)の人形ですよ」
「えええ? あの、南の島へ帰っていくモスラの頭の上に乗っていたやつですか!」

Z氏もだんだん調子が出てきたのか、いきなり力を込めて「未来の夢」を語り出した。これだけのコレクションを築いたのも、いずれはその夢を実現するための布石なのだろうか。俺も調子を合わせていたら、こっちまで躁状態というか、オタク丸出しになってしまった。ちなみにZ氏の「夢」とは、こういうものである。

「タケクマくん! ボクには“特撮大学”を作ろうという夢があるんだよ!」
「な、なんですかそれは?」
「日本特撮の素晴らしさを世界に知らしめるための研究教育機関だ! タケクマくんもぜひ協力してほしい!」
「なにをやればいいのですか」
「とりあえず、ピアノ線学科の教授とかどうかな」
「はあ。やっぱり特撮はミニチュアを吊ってるピアノ線がばれてるくらいが夢がありますよね」
「その通り。最近ハリウッドではコンピューターグラフィックが流行だが、あんなの特撮じゃない!」
「やはり、ロケットにしても宇宙空間で噴射口からケムリが真上にモクモクあがってなければですね!」
「さすがに君はわかっている。それが正しい特撮だ! コンピューターでは、ピアノ線もケムリも出ないじゃないか!」
「ブルーバック合成科とかはどうですか」
「うん、それも設立しよう!」
「やはり特撮は、合成部分にブルーバックの青いチラチラが見えてなければ“風情”がないですね。『モスラ』でピーナッツの小美人が舞台の見世物になる場面では、全部合成なので輪郭が盛大に青くなってましたね」
「これもコンピュータ合成ではチラチラが出ない! そんなの合成ではない!」
「まったくですなあ」

……という、ある世代以上のオタクでなけばまったく理解できないような、完全に狂ったような会話が、それから数時間は続いたのだった……。(つづく)

●「コレクター考」今後の連載予定
(6)N氏登場。その驚異のコレクターズ・ルーム
(7)戦慄の収集術。勝負は“始まる前”に決まっていた
(8)なぜ集めるのか? コレクターの男女差に見る男の哀しさ
(9)コレクターの末路

※予定は変更することがあります。また、途中で別エントリを挟むこともあります。思いがけず長くなりそうなので気長にお待ちください。

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| コメント(29)

“コレクター考(5)俺が出会ったコレクター達(三)” への29件のフィードバック

  1. たにしんいち より:

    爆笑(笑)

  2. めたろう より:

    いや爆笑だけど、凄いじゃないっすか!
    祝詞って「呉爾羅」って当て字(正しいかあやふや)が出てくるアレでしょう?!

  3. ぬるはち より:

    今からでも設立して欲しい。大学。
    国から補助金がっぽり取るべーさー。

  4. horirium より:

    「これが何か分かるかね?」
    「こ、この半鐘は!」
    「そう、これが映画の中で実際に鳴らされていた半鐘だ。実物だよ。そして、これが・・・」
    障子を開けた奥の部屋にあったものは・・・
    「この大八車は!ま、まさか!?」・・・

  5. Yahhoo より:

    大変僭越で申し訳ありませんが、
    >「そう、これが映画の中で実際に鳴らされていた半鐘だ。実物だよ。そして、これが・・・」
    >障子を開けた奥の部屋にあったものは・・・
    >
    >「この大八車は!ま、まさか!?」・・・
    これはダメじゃん。

  6. 長谷邦夫 より:

    「きみ、この前歯が分かるか?」
    「ゴジラの前歯ですか」
    「バカ言うんじゃない!これはな木下恵介の
    『楢山節考』で、田中絹代が石臼に…」
    「あ、ぶつけて割った…」
    「バカ言うじゃない。彼女は事前に歯医者で
    ホンモノを抜き、入れ歯を石臼にぶつけたんだ。
    これは歯医者が持っていたモノホンの歯だ」
    「ハ~~~」
    特撮歯科学部の設定をお願い致します。
    ジョーズやアリゲーター、007の歯など、
    映画には歯は欠かせません。
    卒業生には「歯科士号」を授与!
    特撮大学!いいなあ。

  7. たにしんいち より:

    ↑チクショウこれ実にイイとこ突くなあ!
    「エレファントマン」のマスクとかそんなのしか思いつかないから今日は仕事する、、、

  8. 長谷邦夫 より:

    >たにしんいちサン
    お仕事が進むほうが大切!進めましょう。
    ぼくは確定申告書類…下書き中断。
    あす税務署…本書き。

  9. 永田電磁郎 より:

    ゴジラで母校の講堂が女生徒達が祈りの歌を歌うシーンに使われまして、卒業式や文化祭など数々のイベントをそこでやりました。今はもう建て直されているんですが、当時はしょっちゅう床が抜けて学生が床にはまったりしていました。
    今さらながら、割れた板の一枚でもとっておいたら「これがゴジラに出てきた講堂の板だよ」と自慢できたでありましょうか…。
    できないですね。

  10. トロ~ロ より:

    パトレイバーのOVA版で整備班のシゲさんが潜水服(映画ゴジラと同じく)を着こんでオキシジェン・デストロイヤーのニセモノを抱えて登場していました。
    後ろから榊整備班長が現れてシゲさんを羽交い絞めにして「プラスチックの筒っぽにドライアイスを詰めて、シゲ、てめえ何しようってんだ、エンジニアってものはなぁ、もっと現実的に物事を考えるもんだ!」と叱っておりました。
    「はなせ、はなしてくれぇ~!」というシゲさんの叫び声が耳を離れません。
    昭和29年ゴジラは当時の日本人にとって原爆と第二次世界大戦の惨禍の象徴(イコン)そのもの。
    それすら無きものにする恐怖の超科学「オキシジェン・デストロイヤー」は、いわゆる「マクガフィン」ではありますが、特撮者にとっては「ガラダマ」と一、ニを争う垂涎のオーパーツなのでせう。

  11. o より:

    まだやるんかい
    http://yui.cynthia.bne.jp/nandemo/img/1170329790_0010.png
    本田さんのラジオで何か言ってた

  12. 長谷邦夫 より:

    29年の『ゴジラ』に学生の一人として
    出演した人が、ぼくが高校の美術部に
    所属していたころ、隣りの演劇部に
    いました。
    彼の学生服の金ボタンを所有!(ウソ!)
    鈴木さんという部長でしたね。
    都立芝商業高校演劇部。
    美術部との境目はなし。
    音楽教室の一部をカーテンで
    仕切っただけで、2部同居。

  13. 飛鳥了大好き より:

    ゴジラの映画は記憶にもほとんどないんですがオキシジェン・デストロイヤーで笑ってしまいました。
    (勝手な話ですが竹熊さんも笑ってしまったのでは、とも思いました)

  14. らっぱ大臣 より:

    ピアノ線学科って、4年制ですか?

  15. ゴジラ・ファイナルウォーズのイベントで宝田明氏が…
    「…また、第1作目でゴジラを倒したオキシジェンデストロイヤーが東宝スタジオにあるはずだと聞きまして、92年に伺った際に大道具さんに聞いた事がありました。大道具がたまった山の中を探したら、ようやく見つかったのですが、そのオキシジェンデストロイヤーがスタジオの玄関に飾ってあります。もし今「何でも鑑定団」に出品したらと思うと……もらっておけばよかったなと思います(会場爆笑)。 世界に1個しかないからさぞや高く売れると思いますよ。…」
    って記述があるんですけど、ほんとはいくつか存在してるってことですかね?小道具だから複数ありそうなもんですけど…

  16. たけくま より:

    >マット画学科希望さん
    僕がZ氏宅で見たのは88年頃のことです。どちらかが偽者でない限り、やはり複数作られていた小道具なのでしょう。

  17. 有名な雷鳥 より:

    「コレクター考」シリーズ、面白い!
    面白すぎる!!
    気長に待たせていただきますので、どうかシリーズを完結させてください。
    いつか、一冊の本にまとめて下さい。
    そのときは、必ず買います。

  18. めたろう より:

    良く、「三種の神器」みたいな言い方しますが、
    これまで幾度と無くパロディの対象や小道具として扱われたオキシジェン・デストロイヤーの現物は、
    「メートル原器」みたいなもので、
    信仰の対象と言う意味ではやはり「神器」なのでしょうなぁ。
    特撮「三種の神器」の一、オキシジェン・デストロイヤー。
    後の二つは?

  19. テクノ より:

    さよならジュピターのロケットパンチとか

  20. TV番長 より:

    ハヤタが誤って掲げたスプーンとか。

  21. フォークト・カンプフ検査器がほしい。
    自分には使いたくないけどw

  22. にせロッカー より:

    さすが和製アッカーマンだ。

  23. 門弟廃村 より:

    操演学部手踊り科がいいな。
    「あっ、このやろう。なんにでも食いつきやがって!」
    とか、一人芝居もできるしな。

  24. 数年前にZ氏の自伝が出ましたけれども、ネタ
    の濃さはともかく、読み物としてはあまり、
    面白いモノじゃあなかったです。
    コレクターや図鑑製作者としては一流でも、
    文筆家としては(?)なお方かと思ってしまい
    ました。
    竹熊さんが評伝を書けば、すごく面白いものが
    できると思います。

  25. hikky より:

    こんにちわ。
    z氏と竹熊さんの会話を拝読して、
    サルまんの二人のかけあいを連想してしまいました。
    私はクラオタでCDをコレクションしていますが、
    コレクションは自分の心の欠落を埋める行為であると思います。
    しかし、物では埋まらないからコレクションには終りが無くなるわけです。

  26. syuu より:

    特撮って "風情" だったのですね。
    目が爛々と輝いているお二人の姿が浮かびました。
    さらに狂った続きを期待してます♪

  27. エイジロー より:

    >マット画学科希望さん
    このエントリの話のノリですと、
    マット画の扱いはかなり低くなりそうですね。
    ホリゾント学科マット画ゼミ・・とかね。
    実習のほとんどがおっきいホリゾントに、
    空ばっかり描かせられちゃうような気がします。
    想像しただけで泣けてきた・・。

  28. 忍天堂 より:

    冗談抜きで、スーツアクター科は必要だと思うのですがね。
    講師は薩摩剣八郎あたりで。
    パワーレンジャー(スーパー戦隊シリーズを海外向けにした特撮テレビドラマ)で、
    外国人のスーツアクターの動きが最初は余りにもダメダメだったらしいですが
    日本人の殺陣スタッフが参加してからは、大幅に改善されたらしいです。
    特撮でのスーツアクターの演技は日本独自のものじゃないでょうか。
    何をもって特撮と呼ぶのかが難しいところでしょうが、
    チープなのが特撮という表現は、ちょっと違和感がありますね。

  29. rosta より:

    なべやかんじゃないですね。年齢的にも違うようだし….彼もすごいようですが。

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