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2007年3月1日

コレクター考(7)冥府魔道の収集術(一)

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今回は微妙な領域の話である。つまりこれまで紹介してきたような「超コレクター」が、いったいどのようにして驚愕のコレクションを築くことができたのか……という話だ。今回はそこを推察してみたい。「推察」と書いたのは、当のマニアに尋ねたところで、どういうルートで誰から手に入れたのかという詳細など、まず教えてはくれないからだ。それが普通の店には置いていない「一点モノ」であればなおさらのこと。正直、俺にもよくわからない「謎」が、そこにはあるのである。

これはプロの古物業者であってもそうである。所有者がアイテムを手放したり、人から人へ流通する背景にはさまざまな事情があり、古物商はそこをいちいち詮索したりはしない。それがこの世界の仁義なのだ。たとえばの話、万一それが「盗品」であったとしても、相手と自分との間に正当な「商取引」が成立している限りにおいては、古物商の立場としては「知ったことではない」のである。(Z氏やX氏のコレクションが盗品だといっているわけではない)

三年ほど前「まんだらけ」が倒産した出版社から大量に買い取った、漫画生原稿の横領疑惑事件が新聞ネタになったことがあった。作者たちは当然のように、「版元に預けていただけで、譲ったつもりはない。作者に無断で横流しされた」と店側に返還要求をしたのだが、古川社長は「タダでは返せない。お金を払って買い取ってくれ」という対応をしたのだった。

冷酷に聞こえるが、あれもまさにこの世界の商論理に基づいている。悪いのはあくまで原稿を横流しした出版関係者なのであって、店は正当な商行為をしただけ。それが横領品かどうかなんて知らない、こっちは買い取ったのだから所有権はすでに店側にある、欲しければこっちの値付けで買い取ってくれ、という理屈だ。ネットでもかなり話題になったのでご存じの人も多いだろう。古物取引の世界では昔からあった「グレーゾーン」が、はからずも露呈した事件だったといえる。

古書市やヤフオクで、昔の貸本漫画の生原稿が出品されているのを見た人は多いと思う。その中には贋作も混じっているかもしれないが、「本物」も多くある。なぜなら50~60年代の貸本業界では原稿は「買い取り」が基本であり、本が出版されたら、原稿は読者プレゼントになるか、まとめて廃棄されるのが「慣例」だったからである。著作権と所有権はまったく別の権利である。こうしたケースでは、所有権者がどのように原稿を処分しようと、著作権者が口を挟むことはできない。

作者は原稿料をもらった以上、苦労して描いた生原稿が闇から闇に消えていっても指を咥えて見ているしかなかったのである。60年代末に貸本出版社がバタバタ倒産したときには、大量の漫画原稿がチリ紙交換に出され、その一部が古物業界に流れたという構図が本当にあった。出版界において漫画の生原稿が「価値あるモノ」とされるようになったのは、雑誌連載→単行本化というサイクルが常態化した70年代以降の話である。その頃から、徐々にマニア市場も形成されていった。

それ以前は、連載しても単行本にしてくれるとは限らなかった。サンデーやマガジンのような大手であっても雑誌に一回載って終わり、というケースが多かったのだ。新書版コミックスが各社からでるようになったのは68年頃からで、それが出版社のドル箱になるのは73年、オイルショックの後くらいからである。漫画の生原稿が、単行本化のたびに利益を出してくれる宝の山になったのは、比較的近年の話に過ぎないのだ。

とはいえ、店に持ち込まれたそれが盗難届の出ている明白な盗品で、全国の質屋や古物商に警察からの通達が公式に出ているものであれば話は違ってくる。しかし宝石などとは違い、マニアにしか価値のわからない世界で警察が動くことは、実際にはなかなか難しい。古物商であれば、誰でもグレーゾーンで商売している部分があるのは確かだと思う。コレクション道とは、まさしく冥府魔道の世界なのだ。

実際、オタクグッズに限らず古物取引の世界で「盗難話」はよく出る噂だ。十数年前にある有名コレクターが死んだが、彼は著書の中で、コレクションを究める裏ワザとして、「盗む」という項目を堂々とあげていたくらいである(あくまで「ジョーク混じり」だったが)。

最近でも、某アニメスタジオにセル画の窃盗団が入ったというニュースがあった(去年かおととしあたりだったか)。現実問題として現在20代や30代の「若いマニア」が、オタクジャンルでZ氏やX氏クラスの「超コレクション」を築くことは、それこそ犯罪的手段を使わない限り不可能だと思われる。

再び誤解の無いように申し添えておくが、俺はZ氏やX氏のコレクションが非合法な手段で築かれたといいたいわけではないのだ。話は逆だ。彼らのコレクションの骨格は、もちろん市場で買い取ったものもあるだろうが、真に貴重なコレクションに関してはそもそも市場に出ないので、ぶっちゃけた話、関係者から「もらってくる」ことで成立したと思われるのである。

「もらってくる」と「盗む」とでは、天地の開きがある。もちろん非常に微妙な問題が横たわっているには違いなく、書き方が難しいのだが、たとえばこういうケースはどうだろうか。撮影所の片隅に、マニアなら狂喜乱舞のブツが転がっていたとする。たまたま撮影所を訪れてそれを見たマニアが、責任者に「あれ、どうするんですか」と聞いたとする。

すると「ああ、あれはとっくに撮影が終わってるからね。今度廃品回収が来たら、引き取ってもらうよ」という答えが返ってきたとする。そのマニアは喜びを押し殺して再度こう聞く。「え? じゃあ、いただいてもよろしいですか?」「ああ、いいよ、いいよ。邪魔だから持って行ってくれ」……という会話が成立したとすればどうだろう。

この場合は、持ち出してもまったく合法である。双方納得づくで「あげる」「いただきます」とやるのだから、なんらお天道様に恥じることはしていないわけである。(つづく)

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| コメント(17)

“コレクター考(7)冥府魔道の収集術(一)” への17件のフィードバック

  1. めたろう より:

    「盗む対象」になるには、そのブツに市場価値が発生してる必要がありますな。
    「もらう対象」は、所有者または制作関係者が、
    そのブツに対して、
    ・市場価値を見出してない
    ・市場価値を知らない
    から成立するわけで。
    これはフツーのお宝の世界でも同じ事か。
    先の記事の「ヒーローショウのコスチューム」とか、位置づけが難しいなぁ。
    市場価値があるとまでは言えないものなぁ。

  2. apg より:

    ヒーローショーのコスチュームでも、
    「「あの有名コレクターの所有物だった!」
    という理由で価値が出る可能性もあるんじゃないでしょうか。

  3. より:

    大塚康生は、1970年頃、アルバイトをしていた専門学校で「ホルスの大冒険」のセル画を持っていっても受講生は誰も興味を示さなかった……ってことを自著で書いています。その頃はアニメのセルも、特撮関係のグッズも二束三文どころか、値段すら付いていなかったんでしょうね。ただのゴミ。それを"もらってくる"ことができた今の50歳代や60歳代の人たちが羨ましい……

  4. nomad より:

    僕は40代でたけくまさんとほぼ同年代ですが、アニメのセルなどはもらってくるものではなく、拾ってくるものでした。多分ぼくらの年代が拾える最後の世代でしょう。ちょうど僕らは第一次ヤマトブームですが、ヤマト以前では拾うものだったのです。厳密にはもう少し前で、1975年ごろまでの話だと思いますが。
    もっとも僕自身は地方の者ですのでセル画をもらったり拾ったりできるはずもなく、スタジオ近くに住む同世代の目端が利く者がそういうことをしていたと聞いてうらやましく思ったのみですけれども。

  5. TV番長 より:

    必殺仕事人の某組紐屋の竜氏はグレーっつか思い切り黒い方法で収集したっつー話は本当ですかね。

  6. みゃ より:

    文学の方ではヤスケン、という人もいましたね。
    あの人が晩年、オーディオにはまって
    大層なシステムを組んだのも・・・

  7. まお より:

    円谷プロでも、一時期要らなくなったブツをほいほいくれてやってたそうです。

  8. 長谷邦夫 より:

    フジオ・プロでも、マネージ役のYさんが
    『ひみつのアッコちゃん』のコマを
    ばらして、ファンレターの返事サービスで
    使っていたことがありますよ。
    でも単行本化が流行りだして、
    Yは雑誌ゲラなどでトレース原画で
    復元作業を自分でやる羽目に
    なってしまったと思います。
    ぼくの貸本原稿は、年末ごとに
    燃やされていたらしい。
    証言者がいますし、間違いないです。

  9. Aa より:

    大塚さんのHPに面白い回想がありました。
    http://www.shiga-web.or.jp/mvj/yasuoworld/back001/index.html
    行間にかすかに匂うイヤミーさがまた彼の味ですぬぇ~。

  10. だんちづま より:

    すみません、こういう世界とは本当に無縁の者なのですが、昔、いとこが「ガッチャマン」のセルの彩色?をしてまして、小学生だった私はよくセル画をもらいました。30年くらい前なので、今となってはどこに行ってしまったか分かりません。ごめんんなさい。私のようなケースも多いのでしょうね。

  11. めたろう より:

    Aa様
    ↑大塚さんの回想録、
    ・セルに対するスタンスの男女比
    ・セルに執着したのが女性だった
    ・市場価値を作るのが男性、の傾向
    ・その性差が無くなったり逆転したり
    とか、興味深いです。
    と思ってたら、回想録を裏付ける様な
    だんちづま様
    の登場。面白い。

  12. ppn より:

    最近はアニメの製作現場がデジタルデータになったのでコレクターが集めるのはせいせい設定資料(生)、アフレコ台本、ぐらいでしょうか。紙原画もまだ取引されているみたいですが。そういう意味では「お宝の無い」時代かもしれませんね。
     もっとも、マンガの生原稿となると話は別です。貴重な原典が紛失や盗難にあうケースもありますから。最近では漫画家側が単行本出版と同時に返してもらう(元々原稿の所有権は基本漫画家側にあるので)ケースや、データのデジタル原稿作成するためマスターは作家側の管理というケースもあります。昔は出版社が掲載済み原稿をチョキチョキ切って読者プレゼントにしていた時代もあったとか・・・いやはや。

  13. たけくま より:

    アニメセルの話は本日夕方更新予定の「つづき」でも触れています。イシダくんにはもう渡してあるので、更新よろしく。

  14. Aa より:

    快調ですね。

  15. G より:

    中学時代、アニメーターの友達がいる先生がいまして、頼んでみたら簡単にセル画を貰ってきてくれました。
    かなり一杯貰ってきてくれて随分と感動しました。
    あのバイファム・・・実家にまだあるんだろうなー。

  16. 「それにしてもすごいわァ…この光沢といい…まるで本物みた…!?」
    っていう、あれですね。

  17. たけくま より:

    イシダくんが今日来るはずでしたが、こないので携帯に電話してもでません。彼はときどき連絡がつかなくなる謎の癖があるのです。原因は不明。そんなわけで本日の更新はなしかも。困った癖だよな~。

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