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2007年3月2日

コレクター考(8)冥府魔道の収集術(二)

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さて、俺が前回書いたようなこと(激レアモノをタダで譲ってくれる)が「現実にあり得るのか?」と若いマニアは疑問に思われるかもしれない。確かに、2000年代の現在、そんなことはありえないだろう。90年代にもあり得ず、80年代でも、レアケースであっただろう。しかし、70年代までを考えると、確かにあり得たのだ。

これはアニメも同様である。たとえば撮影に使用したセル画は、俺の子供の頃はスタジオ見学の帰りにもらえる「おみやげ」であった。虫プロも東映動画も近所の子供に「あげて」いたのである。余ったセル画はどうしたかというと、ゴミとして捨てられていたのだ。

俺は70年代の終わり頃、東映動画の名作『太陽の王子ホルスの大冒険』(1967)のセル画が、東京湾某所に大量に不法投棄されていたという「噂」を耳にしたことがある。あるマニアは、噂を聞いて潜水夫の免許を取得しようとしていたそうだが、その後見つかったという話は聞かない。まあ見つかったとしても、当時で十年以上も海水にひたされていたセルが無事だったとは思えないが。

77年に最初のアニメブームが起きるまで、セル画に市場価値は存在しなかった。そもそも「市場」自体がなかったのだ。欲しい人がいたとしても極めて限定されていたので、「相場」も成立しようがない。それが、ブームを境に突如として市場が「出現」したのだった。俺は、高校3年の78年に「ヤマト」ファンの女子が集まって、学校の廊下でセルの交換会をしていた光景を目撃したことがある。金銭のやりとりはさすがになかったと思うが。。

俺は完成した作品にしか興味がなかったので、あんなものにきゃっきゃと喜んで、何が面白いのかと不思議に思っていた。それが、それから1年もたたずに新宿にアニメファン向け専門ショップが開店し、セルやコンテ、設定資料などが高値で取引されるようになった。つい2,3年前まで「タダでもらえるもの」だったものが、である。

Z氏やX氏も、それぞれのコレクションの基礎を70年代に完成していたことを、今一度確認してほしい。70年代の早い時期までなら、製作スタッフにコネさえあれば、撮影済みの小道具などいくらでももらえたのだ。今なら一点数十万するようなレア・グッズであろうが、当時は単なるガラクタとしてスタジオの隅に転がっていたのである。そんな夢のような時代は、80年代が近づくにつれて終焉したのだったが。

マンガ古書の世界でも、真の意味での「掘り出し物」があったのは、やはり70年代が最後であったようだ。古川益三の『まんだらけ風雲録』(太田出版)を読むと、70年代終盤に古川氏がバンに乗って北海道から沖縄までを行脚し、すでに閉店した貸本屋を回って「残っているマンガ、一括20万で引き取るけど、どう?」と絨毯爆撃的に買い取っていった様子が描写されている。

既に貸本として何巡かを経て「モトをとっていた」彼らには、残った漫画本は処分に困る紙クズにすぎなかった。店を閉じて年金暮らしに突入していた元貸本店主らは、売ってくれたのだ。チリ紙交換に出してもチリ紙にしかならないものが、現金をもらえるとは! そうして古川氏が集めた古本の中には、数十万の値が付く水木や楳図、手塚の赤本、足塚不二雄(藤子不二雄)のデビュー作で古川氏が300万の値をつけた『ユートピア 最後の世界大戦』などの逸品があったわけだ。

以上考えるに、マンガにせよアニメにせよ特撮にせよ、マニアにとっての夢の時代(掘り出し物)があった時代は、ことごとく70年代で終わっているということである。激レアモノ収集に関する限り、三〇年以上前に「勝負」はついていたのである。その後の八〇年代以降は、当時のマニアが評論家や、業者そのものとなってマニア市場が整備され、彼らが相場を作り上げて市場を裏から「支配」している構図である。

もちろん、それにはよい一面もある。「市場」があるということは、お金さえ出せば大抵のものは入手できるということだからだ。一般に、コレクションを築くには情熱と時間が必要なのはもちろん、カネが必要になる。コレクターは余計なカネをかけたくないから、時間と情熱を無尽蔵にかけてそこをカバーしようとするのだが、すでに「市場」が成立している世界では、最後にはお金が必要になるのは冷厳たる資本主義の真実である。(だから、盗みを考えるヤカラが後を絶たないのだ)。

前にも書いたように、あなたが最初から大金持ちであるなら、代々続く大地主か資産家の長男などであれば、さしたる問題はない。あるいはジャンボ宝くじに三年連続当たったとか、家の庭に石油が湧いたとか、若くして株か先物でボロもうけしたのであれば。誰も止めはしない、どうぞ気の済むまで何千万でも費やして激レアモノを「大人買い」してほしいと思う。

あるいは、あくまでお小遣いの範囲で、マニアショップに陳列されているお気に入り商品をいくつか、家計に響かない範囲で購入する程度にとどめるなら、それは「微笑ましい趣味」であって、せいぜい「普通のマニア」にとどまることができる。それはそれで幸せな人生だろう。

しかしあなたの中に「冥府魔道」の血が流れていて、集めるうちにそれが発現してしまったら……。いまさら日本一になることは最初から不可能であるのに、病気のあまり犯罪に手を染めたり、非業の死を遂げないとも限らない。最終回で書こうと思うが、マニアが昂じて破産→失踪した人間は本当にいるのだ。

そこで、そうなりかねない野心に燃える若いマニアに俺からアドバイスするなら、答えはひとつである。「まだ市場の成立してない分野を狙え!」ということだ。言葉を換えれば、「まだライバルもほとんどいない、独自のジャンルを作れ」ということである。

すでに市場が成立した世界は、趣味に名を借りた弱肉強食の資本主義があるばかりだ。自分が市場を操作するくらいの大物になれるのであればまだしも、市場の裏にはバケモノのような真の番長がいて、彼らが死なない限りはそういう立場になど立てるものではない。しかし、これまでさんざん述べたように、そうした「番長」たちにしても、最初はゴミ拾いから今の地位を築いたことを忘れてはならない。

今でも、ゴミとしてうち捨てられている中に「未来のコレクターズ・アイテム」が、きっとあるはずだ。そこに分け入って、タダのゴミから未来のお宝をゲットできるかいなか……。それこそがホンモノの「鑑識眼」だ。それは単なる収集行為ではなく、誰も気がつかなかった価値を「創造」することでもある。コレクター最高の喜びとは、じつは激レアモノをゲットすることではない。「ゴミの中から新しい価値観を創造する」ことこそあると、俺は思うのである。

もちろん一歩間違えたら、そこらのゴミ屋敷の主人になってしまうが……。(つづく)

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| コメント(20)

“コレクター考(8)冥府魔道の収集術(二)” への20件のフィードバック

  1. Aa より:

    山びこコレクター・・・

  2. なんすかね?
    キャッシュや魚拓?

  3. bB より:

    ゲームもそうですがデジタル化できるものにはあまり価値が発生しにくいですね
    レアもの説明書つきパッケージでもせいぜい2万とかでしょ
    webのキャッシュをコレクションしてる人もいるんだろうけど著作権の問題があるから値段のつけようがないし

  4. ゼリーマン より:

    ギャル雑誌コレクターとか。特にコギャル向けのeggみたいなやつの。
    コレクターになろう!なんて人は、あの方面を無視するか憎んでるかのどっちかでしょうから。
    その代わり、いつまで経っても市場なんかできないかな。
    でも、いつか民俗学的な価値がでるかもしれないですよ。

  5. eggは服装のいいインスピレーションが湧きます。
    なんで日本人なのにあんなに魂がぶらっきーなのか不思議です。汚れてるってんじゃなくてね。ソウルフルっつんですか。

  6. めたろう より:

    いや、冗談抜きで山びこコレクターくらい飛躍したものでないと、駄目かもしれません。
    あるいは文字通りのキャッシュ、すなわち小銭というのもイイ線ついてるかも。
    今あまりにも小銭コレクターはありふれてますが、30年後は判らない。
    雑誌も同様。
    ジャンルで考えるのではなく、
    雑誌メディアそのものの滅亡に本気で賭けて、マイナーなものから順に全部かき集めて全部取っておく。
    30年後にショバ代その他諸経費回収できたらご喝采。無茶か。

  7. ナナシー より:

    ここ一連の話はタメになります。
    自分の知らない時代の空気とか
    聞けるのは非常に楽しい。
    今大変な状態だけど
    たけくまさん、やっぱり死んだアカンよ。

  8. a.sue より:

    集めたいのは好きなもの
    コレクターとして名を成すために何を集めるかって話は本末転倒な気がするなぁ
    この話題になってから、竹熊さんとベクトルの違いが見えてきたような気がする

  9. ちんこ太郎 より:

    自分も古い漫画が好きで集めていますが、コレクターっていうのは
    好きでないとほんとつとまらんですよ。
    ぜんぜん興味のない物を、単なる「穴場感」だけで集めても、
    よほどの意志と場所が無ければ、もともと愛情が無いから
    結局は捨てますよ。ある時。
    好きじゃなければ、場所も無駄にするし、ストレスもたまりますよ。
    確実に値が上がるわけでもなし、
    「なんで俺は、好きこのんでこんなものと同居してるんだ」って。
    逆に言えば、愛情さえ続けば何でも取っておけるとも言えますが・・・
    古川社長も、根底には「好き」があるからやってこられたんでしょうね。
    雑誌はコストパフォーマンスの点で言えば最低でしょうね。
    場所は取る、あまりにも数が多い、モノによってはくさくなる、虫がわく・・・
    おまけにもし、たとえばギャル文化が見直されたと仮定して
    ギャル雑誌が高くなっても一冊千円がせいぜいだと思います。
    理屈だけじゃやってらんないと思いますよ。
    それに、日本はこの先まずしくなる公算が高いですし、
    ネットの発達で、CDやレコードを買わないでも、ダウンロードで十分、という、
    「モノ」にこだわらない人も、沢山でているようですから
    そもそもコレクター文化そのものが残っているかどうかすら疑問です。

  10. ちんこ太郎 より:

    また、いざその時代が来て、晴れて仕手側の身分となり、「さあ売ろう!」ってことになっても
    興味が無ければうまいセールストークも考えつかないとおもいます。

  11. nomad より:

    > 竹熊さんとベクトルの違いが
    それはたけくまさんがコレクターではないからですよ。
    コレクターではないからこそドラスティックっつーんですか、手法について話ができる。
    (僕もコレクターではないですが)
    本気の人は「病膏肓」ってえくらいで、犯罪だろうがなんだろうが手にいれずにはいられない。
    コレクターってえのは因果ですな。多分、DNAとかそういうレベルの話なんじゃないですか。
    だから、コレクターとそうじゃない人とは決定的に話は噛みあわない。まあそれはそれでDNAとか血液型と一緒で、どうしようもなく混じらないんですから仕方ないでしょう。混ぜたら危険なんですから。

  12. akio より:

    そうそう、混ぜるな危険(笑)
    そういえば、小学生の頃、土器のかけらを集めてたなあ。みかん段ボール2箱。
    そうだ、化石も奥多摩にまで行った取りに行ってた。
    消しゴムも段ボール1箱集めていた。
    メンコも段ボール・・・あれ?
    よく考えたらコレクターぽい事してるな、俺。

  13. bone より:

    「まだ市場の成立してない分野を狙え!」でマニアになる人がいないわけじゃないでしょうけど、それよりは後から入りこんだコレクターを相手に商売しようとしている古物商の人たちにとって絶対必要な発想ですね。
    「まんだらけ」の社長の話も出てきましたが、目利きで食ってる人たちにとっては、こういう発想は常識の範疇かなと。

  14. 1026 より:

    キャッシュってコメントが結構あるけど、
    それって、今のまとめサイトが盛況だったり、ログから作られる出版物なんじゃ?

  15. ポン一 より:

    なんか、mixiに「森進一はどうするべきか」のエントリの一部(オブチ云々と、最後の段)を削って自分の日記として書いちょる方がいますね。

  16. ぬるはち より:

    ここで言ってるキャッシュって、
    「銭」のことなのか、
    「Webのキャッシュ」のことなのか、
    両方の話があって混乱する。
    「銭」は大昔から世界中にコレクターがいるし、
    「Webキャッシュ」に価値を生じさせるには、
    膨大な量を分類整理する必要があり、個人では無理そうだ。
    加えて商業利用するには著作権の問題があるな。
    (もちろんたけくまメモをコピペして自分の文として使ったら、
    盗用で著作権侵害だよな。)

  17. まお より:

    私はコレクションを十数年前に始めましたが、すでに家に入らなくなってトランクルーム借りてます。
    多分、個人のコレクションとしては世界一、といっても世界中でコレクションしてるのはまだ数十人ですが。

  18. まお より:

    私はコレクションを十数年前に始めましたが、すでに家に入らなくなってトランクルーム借りてます。
    多分、個人のコレクションとしては世界一、といっても世界中でコレクションしてるのはまだ数十人ですが。

  19. まみ より:

    >ポン一さん
    見てきました。
    丸々コピーでした。
    ああいうのって指摘したほうが良いですよね。
    ニュースから来た人がコメしてるし、どうなのかな。
    他の日記もコピペなものがありました(それは記者の署名入り)。

  20. コリン より:

    ちょっと印象に残るコレクターだと「雑誌の創刊号のみ」を集めている方をテレビで見たことありますね。アダルトビデオなんかも物によっては?集め甲斐がありそうです。

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